和気藹々

任務も訓練も無いせっかくの休日なのに空は分厚い雲で覆われている。不安定な天気の中で誰も出かけるわけでもなく五条によって呼び出されたクラスメイト全員が共有スペースに集まった。集合をかけた張本人は箱型の据置ゲーム機の準備をしている。

「最下位になったヤツが昼飯の買い出しな。もちろん全員分奢りで」

かくして、スマブラ大会が始まった。五条はフォックス、夏油はシーク、家入はピーチ、苗字はマルス。それぞれが使い慣れたキャラクターを選択した。家入は涼しい顔でコントローラーを握っているが、画面上では慣れた動きで攻撃を繰り出している。それを見ていた苗字は意外そうな顔をした。

「...硝子強くない?」
「コイツらに散々付き合わされたからね。嫌でも覚える」
「持ち主の悟はそうでもないのにな」
「傑、リアルファイトするか?」

頭に血が上った五条が夏油に攻撃をしかける。そこに家入も参戦して五条を場外にした後、ごめんねと言いつつ苗字を場外に。罰ゲーム回避が確定したので手を抜いた家入を倒し、最終的には夏油が一位となった。

「うっそだろ」
「言い出したのオマエだろ」
「三位のクセに威張ってんじゃねーぞ、チビ助」
「最下位が奢りっていうルールだからな!」
「クソ。さっさと買ってきて欲しいもの言えよ」

三人は各々好きなハンバーガーのセットの名前を口にする。五条は財布をポケットに突っ込み、文句を言いながら買いに行った。高専からファストフード店まではしばらく歩かなくてはならない。苗字たちはゲーム機を片付け、共有スペースのソファでだらだらと待つ。
しばらくして、外からザーザーと音が聞こえてきた。窓に目を向けて苗字が呟いた。

「雨降ってきたなー」
「五条傘持って行ったっけ?」
「いや、財布だけだったと思う」

家入、夏油が順に言った。そういえば、と苗字は思い出したことを口にする。

「あ、術式使えば濡れないのか」
「街中で雨に全く濡れない大男とか怪奇現象だろ」
「悟がそこまで人目に気を使うかは分からないけどね」

二人の言うことは尤もである。そうこうしているしているうちに、雨足が強まってきた。窓ガラスに雫が叩きつけられていく。

「うわ、土砂降りになってきた」
「今日の昼ご飯は水浸しのハンバーガーかもね」
「名前、悟に傘持って行ってあげなよ」
「えー、なんで私が」
「だって三位は君だろ?」
「うっ」
「ありがとう名前。私の昼ご飯を死守して来て」
「硝子まで...!」
「私の分も頼むよ。悟は濡れても構わないから」
「結局二人とも自分の昼ご飯が大事なのかよ! あーもう、行ってくる」

苗字は嫌々立ち上がって玄関へ向かった。玄関に行けば置き傘などは沢山ある。二本くらい拝借しても大丈夫だろう。
彼女がその場からいなくなると、家入は含み笑いをした。

「夏油、わざと行かせただろ」
「悟が喜ぶと思ってね。硝子こそ分かっててノったんだろう」
「ははっ、名前にはいい迷惑だな」

その頃、五条は某有名ファストフード店の前で立ち尽くしていた。両手には出来たてのハンバーガーとポテトが大量入った袋を持っているのだが、今必要な傘がない。土砂降りの雨を見てどうしたものかと考えあぐねていると、歳上と思われる見知らぬ女性二人に声をかけられた。

「ねえ君、傘持ってないの?」
「雨止むまで私たちと店内で待っとこうよ」

所謂、逆ナン。彼にとって珍しいことではなかったので無視を決め込んだ。しかし彼女らはこの雨を絶好の機会だと捉えたのか、諦めずに話しかけてくる。傘だけよこせ、と言いたいのを我慢して断ろうとした。

「あー...俺そういうの、」
「お兄ちゃん、傘忘れてたでしょ! お母さんたちが心配してたよ」

五条の言葉を遮って、女性たちの横から苗字が顔を出した。妙な呼び方は助け舟を出しているつもりなのだろう。すぐに察した彼は話を合わせてやる。

「...遅せえんだよ。帰るぞ」
「うん! お姉さんたち、じゃあね〜」

苗字たちはその場から離れ、片方のハンバーガーの袋と傘を交換した。少し歩いたところで五条が呆れた様に言った。

「オマエ馬鹿なのか? なんだよさっきの」
「逆ナンされてたから助けてやったんだろ」
「俺とチビ助が兄妹とかありえねーから」
「んだよ。彼女の方が良かったか?」
「もっとありえねーわ!」
「ほらみろ! そうなると思ってのチョイスだったのに!」
「ハッ、そりゃどうも」
「わざわざ傘も持ってきてやったのに」
「それはまあ...さんきゅ」
「...白髪、お礼言えるのか」
「蹴り飛ばすぞチビ助」

わざとらしく目を丸くした苗字に五条が悪態をつく。なんだかんだ話しているうちに高専に辿り着いた。雨足は途中で弱まったのでそれほど濡れていないのは運が良かった。
共有スペースでは待ちくたびれた夏油と家入に文句を言われたが、苗字達が逆ナンのくだりを説明すると大笑いした。これで待たせた時間を帳消しにしてくれるだろう。彼らは無事に食事にありついた。

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