日進月歩

夜蛾お手製の呪骸のおかげで、ある程度の呪力コントロールが身についた頃。苗字は稽古場に座り込み、古びた指南書を難しい顔で読んでいた。膝には例のクマを乗せているが、暴れる様子はない。傍には槍や弓矢などが転がっている。そこに通りかかった夏油が声をかけた。

「お、色々作れるようになってるじゃないか」
「そうなんだけどさ、刀よりめちゃくちゃ時間かかるんだよ。形が違うからかな」
「イメージが掴みにくいのが原因かもしれないね。竹刀は作らないのかい?」
「壊れやすいし、戦闘向きじゃないと思うんだよね。あとこれはエゴだけど、戦う道具にはしたくないって気持ちも、ちょっとある」
「なるほど。じゃあ、木刀とかどうだ? 丈夫だし形も日本刀に近いよ」
「いいね! やってみる」

苗字が手に呪力を込めると、木刀が徐々に現れた。彼女は額に汗を滲ませ、先程より呼吸を乱している。鼻から血が垂れてきたので急いで近くにあったタオルで押さえた。見事に構築された木刀を見て、夏油は感心した。

「できたじゃないか。短期間で随分と成長したね」
「はは、ありがとう。他の形状の物もこうやってすぐ作れたらいいんだけど」
「逆に、縛りを設けたらどうだ? 日本刀と木刀だけ作るようにすれば、生産率も上がるはずだ」
「縛りか! 丁度この前本で読んだとこだよ。そうしようかな」

夏油のアドバイスのおかげでさらに改善できそうだ。二人で話し合っているところに、丁度五条がやってきた。

「よーチビ助、頑張ってるか?」
「チビじゃねえっつってんだろ。白髪野郎」
「悟も名前もよさないか」

宥める夏油を横目に、五条は床に無造作に置かれている武器を手に取った。作りは既製品と遜色ない上に、これだけの量を作っておいて気絶もしていない。同じ年代の構築術師と比べたら、優れている部類に入るだろう。しかし五条は素直ではないので、そうは言わなかった。

「まあ、なかなか良い線行ってんじゃねえの」
「おー褒められた」
「縛るのもいいと思う。どうせ他の武器扱えないだろ」
「...おっしゃる通りなのが悔しい」

直前の話を聞いていたらしく、的確な所を突かれてしまう。彼女は自覚があるので言い返すことはせず、大人しく頷いた。それを見た夏油が明るく言った。

「武器は決まりだな。後は戦い方だ。そろそろ私たちの実践訓練にも混ざってみるか」
「マジで? 大丈夫かそれ」
「怪我しても硝子が治してくれんだろ。俺らがみっちり鍛えてやるよ」
「こっわ」

悪い笑みを浮かべる五条のせいで苗字の顔が引き攣る。しかし、ふと彼女は思ったことを口にした。

「そういえば、オマエらの術式知らないんだけど」
「俺のは説明するより見た方が早い」
「今度私たちの任務に同行するのもいいかもしれないね」
「え、いいの? 私まだ階級ないと思うんだけど」
「学生証に書いてなかったのか? まあチビ助は四級くらいだろ」

傍らの財布から学生証を取り出して見てみれば、確かに四級という文字が示されている。

「...本当だ」
「ある程度戦えるようになったら、同行させてもらえるように言ってみるよ」
「ありがとう夏油。じゃあさっそく訓練だな!」
「おっしゃ、俺がボコボコにしてやる」
「受けて立つ」
「よし、負けたヤツが残り二人に奢りな」

五条の言葉にそれぞれ頷くと、散らばった武器を放置したまま三人の乱闘が始まった。体格差ハンデとして、苗字だけ呪力で身体強化するのを良しとしている。おかげで五条も夏油も容赦がない。
この後三人は、様子を見に来た夜蛾に怒られたので決着はつかなかった。

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