同衾共枕

 時は少し遡り、名前が悟の家にやってきた初日。彼女はキッチンや風呂場の使い方など一通りの説明を受けていたのだが、最後に家主の寝室を見て驚きの声を上げた。

「ベッドでかいな!? これ何サイズ?」
「クイーンのロング。僕、背が高いから普通のだと窮屈なんだよね」
「ムカつく...!」
「ま、2人で寝るなら広い方がいいに越したことはないでしょ」
「... ...? 2人?」
「僕と名前以外に誰がいるの」
「一緒に寝るのか!? 毎日!?」

 さも当然のような顔をする悟に対し、名前は開いた口が塞がらない。しかし彼はお構い無しでつらつらと話を続けた。

「うん、そのつもりで大きいの買ったし。キングにしようかと思ったけど部屋に入れるのが大変そうでさー」
「待て、確か空き部屋もあっただろ」
「あれは客間だから駄目。ここが名前と僕の部屋」
「何でだよ!」

 名前の声量が更に大きくなった。客間を用意する理由が見当たらず、納得ができていない様子。悟はわざとらしく口を尖らせて尋ねた。

「逆に何でそんなに嫌がるんだよ。悲しいんだけど」
「いや...だって、さすがに恥ずかしい、し...」

 勢いがあった名前の言葉がしりすぼみになっていく。僅かに顔を赤らめた彼女を見て悟は口元をゆるめた。

「高専の時は名前から一緒に寝ようって誘ってきたのにねー」
「馬鹿。あの時は悟のほうから部屋に来たじゃん」
「では問題です。名前が不在の1年間、寮の部屋の掃除をしたり、担当者が減った任務を代わりに請け負ったり、退寮後の住む家まで用意していたのは誰でしょうか」
「... ... 五条悟です」
「せいかーい! という訳で名前に拒否権はないよ」

 痛い所を衝かれて名前が閉口し、寝室議論は悟が勝利を収めた。長い間恋人からおあずけをくらっていた彼は内心大喜びだった。


___そして迎えた夜。薄暗い寝室で悟は先にベッドに潜り込んだ。至極楽しそうに布団を持ち上げ、横に突っ立っている名前に呼びかける。

「ほら、入りなよ」

 少し間を置いて名前は促されるまま布団に入り、彼の隣に寝転んだ。外した眼帯をサイドボードに置く。背中を向ければ後ろから長い腕が伸びてきて腹部に回された。

「相変わらず小っさいなー」
「悟が無駄に長いだけ」
「背が高いって言おうか」

 悟が訂正を加えると腕の中で名前が小さく笑った。始めは緊張していた彼女も体温を分け合う心地良さを覚え、うっとりと目を閉じた。次第に眠気がやってくる。一方で悟が耳元でぽつりと呟いた。

「...実は僕、名前がいなくて結構寂しかったんだよね」
「...ごめん」
「謝らなくていい。でも、今までの分は埋め合わせはしてもらうから」

 酷く甘い低音が名前の耳朶を打った。急に心拍数が上がり頬に赤みがさす。悟は相手の反応を楽しむようにして腕に緩く力を込めた。再び訪れた気恥しさで名前は布団から抜け出したくなったが、腹部に回された手が許してはくれなかった。かといって目を閉じても眠気はやってくるわけでもなく。
 その夜、彼女の睡眠時間は随分削られてしまったのだとか。

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