とある学園のとある寮の部屋の羽曳野さんのお宅の団欒
時は明朋。
平成三〇年、第三次世界大戦が起こり日本もその渦中に巻き込まれた。日本は憲法九条を取り下げ、戦争に参加。戦況は予想以上に混乱を来し、地球はその負荷に耐え切れず滅びの一途を速めた。
戦後、日本は年号を改め、地球を壊してしまったことを悔やみ、明治時代の体制に戻す考えを示した。年号もそれにあわせている。
斯くして、日本は明治とは百年以上も先を歩きながら、文明を明治に寄せているある種異様な光景となっていた。










そして、場所は山奥の国立学園。
男子と女子に分けられて設立されたこの学園は、敷地面積も壮大で、一つの国といっても過言ではない。
山奥ということもあり、中等部からなるこの学園は全寮制で、国のエリートの芽を育てる国家機関となっている。制服は一律袴である。
俺は、この学園高等部の風紀委員長を務めている。
「ははうえー」
「こら、出来るまでは待っていなさいと言っただろう?」
「あい!」
「こーらっ」
小さな子供が元気よく返事をした。しかし、母親と呼ぶ人物に引っ付いて離れない。
母親も厳しく窘めることはせず、まるで可愛いとでもいうようだ。まあ、可愛いだろう、自分の子だからな。
「すまん、待ちきれんかったみたいだ」
「いいよ。それより、ごめんな。時間かかって」
「いや、楽しみにしてる」
子供を引き取って、額にキスを落とした。
母親は照れたように頬を染めてそっぽを向き、うんと頷いた。
いじらいしいことだ。俺のためだけに毎週末だけは苦手な料理に挑戦してくれる。唯一作れるチャーハンだけ。それでも美味しいし、これがないと週末ってかんじがしない。
なにより、愛息子も楽しみにしているのだ。
「鞠、母上の作るチャーハンは好きか?」
「あい!」
「楽しみか?」
「あい!」
「じゃあ、あっちで父と待っていような」
「あい!」
俺の腕に抱かれてきゃっきゃと喜ぶ。
母親はそれを見送って、微笑んでいた。多分本人は無自覚だろうけど。
そんなところが可愛いのだ。―――まあ、俺の奥さんだから当然だけどな。―――まあ、奥さん男だけどな。
と言っても、男でもあるし女でもある。俺の奥さんは両性具有といわれる体の持ち主で、愛息子鞠を腹を痛めて生んだのも奥さんである。
俺らの出逢いは中等部である。当時荒みまくってた俺は一人でいることを好み、他人と馴れ合うことをよしとしなかった。
逆に母親はいつも他人に囲まれ、人の絶えることのない毎日を送っていた。一年のうちから次期生徒会長と目され、俺とはまるきり正反対だった。
話しかけてきたのは、母親からだった。
『よ、俺と話さねえ?』
媚を売るでもなく、嫉みの目で見るでもなく。宛ら明日の天気を聞くように、唐突に話しかけてきた。
俺にしては珍しく嫌悪感を感じることもなかった。
それからぽつりぽつり、と話し始めるようになって、その年の冬にお付き合いを始めた。
それから、三年。結婚とかはまだ考えられなかった。しかし、予想していなかったことに、高等部一年の春に鞠を授かった。
俺に黙って堕ろそうとしていた母親を叱り飛ばし、ぶん殴って鞠を生むことを決意させた。
その年の冬から、家族三人同じ寮の部屋で暮らしている。問題は色々山積みだったし、一概に認められたとは言い難いものの、俺らは家族三人で暮らせることがたまらなくうれしいし楽しい。
三十分後、漸く完成したチャーハンを前に手を合わせる。チャーハンのレパートリーは徐々に増えてきていて、今日は醤油ベースだ。
「いただきます」「いただきます」「いたあきます!」
スプーンを手に、皿に伸ばす。
鞠は美味しそうに次々と口の中へ米粒を放り込み、焦って食べるからボロボロ零して口の周りについている。
「ほら、こんなにこぼして。落ち着いて食べなさい」
「あい!」
「おいしいか?鞠」
「あい!」
元気よくスプーンを掲げる。
本当は行儀が悪いと分かっていても、どうしても可愛く見えてしまうからついつい甘やかしてしまって、みかねた母親が諌める。けれど、本心ではやはり可愛いと思っているからか、鞠は母親を嫌うことなく素直に返事する。まあ、それで改善するかどうかは別だけどな。
「裕司、ここ、米粒ついてる」
「え、何処?」
「ここだってば」
「んー?」
「仕方ねえな」
裕司を引き寄せる。そして、その唇にキスを送った。
「小鳥!」
途端、裕司は顔を真っ赤にさせた。その顔もまたかわいらしいというのに。
「ちちうえ、ぼくも!ぼくも!」
「ああ、いいぞ。んー」
「きゃー」



チャーハンも美味しいし、奥さんの袴エプロンも可愛いし、家族三人今日も楽しいです

     
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