今日もまた一日が過ぎた。
今まで音楽いらずで賑やかだった部屋は、音楽をかけなきゃやってられないくらい静かだ。以前と変わらないはずなのに広く感じるのも、きっとそこにいた人達がいないからだろう。

生徒会が仕事を放棄した。彼等は現在、一人の生徒に熱を上げ、ライバル達に負けるわけにはいかないと四六時中その生徒に張り付いている。ここで特筆すべきは全員男というところだ。
俺はその生徒に興味はないから、一人黙々と皆のぶんまで仕事を進めている。それが今で2ヶ月経っただろうか。
他人から見れば、大惨事だと、はやく解決しなくてはと思うだろう。たしかに大惨事だが、俺の心を打ち砕こうとしているのは別の事象だ。

「握手会いいな……握手……ゆーたんの手……」

にぎにぎと手を動かし虚ろな目でそれを見る。ピントをずらせば映るのは紙のタワー。パソコンのライトが目に痛い。

俺は、抱かれたいランキングとやらで上位入賞したために生徒会会計をやっていて、ゆるーいチャラ男なんて言われてるが、アイドルオタクだ。ゆーたんの為なら何万貢ぐ事も惜しまないレベルだ。ゆーたんったらまじ小悪魔ちゃん。かわいい。
見た目だって、ゆーたんに会うのにダサい格好なんて!!って思考からきている。握手会のゆーたんの可愛さは忘れられない。あの可愛い声で俺の名前呼んで可愛い手で俺の手握って可愛い顔でニコッて!!ニコッて笑うんだよ!!? ほんと何万円もはたいたかいがあった。買ったCDはどれも大切に保管している。

しかしこの2ヶ月間、多忙を極めたせいで握手会はおろかCDショップにすら行けてない。写真集もポスターもCDも買えていない。見た目もずいぶんズタボロになっている気がする。俺の心もボロボロだ。

唯一の救いといえば、生徒会の皆がいないからガンッガンにゆーたんの曲を流せるということだけだ。これによる癒しは馬鹿にできないが、しかし、やはり新しいCDと生のゆーたんには敵わない。ゆーたん。

無心にみえて実はゆーたんのことを考えながらカタカタとパソコンをうつ俺に音が入ってくる。はっ、これはゆーたんのファーストシングル。歌わなきゃ。
マイルールを実行すべくガタガタと机を動かす。出来たスペースの中央にたってきゃぴきゃぴきゅるんと身体をうごかす。多分傍から見たらキモい。
歌詞はもちろんのこと、DVDガン見して練習を重ねた振り付けに隙はない。ガチ勢の本気なめんなよ、疲れきった頭でも問題ないぜ。あ、サビだ。

「だっい好きなーきっみーのはぁとを〜」

くるりと回って両手を合わして。どこでもいいけどとりあえず目の前にあった扉にハンドピストルを向ける。
ガチャ、とドアノブが回った。

「撃っち抜くぞっ☆★☆」

バァン!とスピーカーから発砲音もどきがなり、俺はばっちりウインクまでキメた。意図せず入室者に向かって。

「あ」
「………………」

風紀委員長が書類を持って目を丸くしてこちらを見ている。それを認識してかかかかっと熱が上がった。あわててゆーたんの曲を止める。ひいいいいゆーたんのキュートでスイートな御声や振り付けと違って低いわキモいわな俺の歌とダンスを見られた聞かれたあの風紀委員長に!恥ずかしい!

「忘れて!!!!!!」
「……はっ?」
「今の!全部忘れて!!!」
「…………いや、に、似合っていたぞ」
「顔を逸らしといて何言ってんのー!!? もう! もう! 絶対忘れてよ!!!?」

絶対に紅潮しているであろう頬を抑えしゃがみ込む。深呼吸をして、熱を冷ます。たっぷり二分かけてそれを行ってから立ち上がった。

「で、なんの用……なんで胸抑えてんのー?」
「っあ、ああなんでもない。用件だが、申し訳ないことに、明日の午後3時締め切りの追加書類だ」
「ぎゃーっっす!!!」

厚さ1センチ分の書類が積まれる。これは辛い。急いで今日の予定を考え直して書類を並べ替える。

「うわあああゴメン委員長ありがとー!!」
「いや、手伝えなくてすまない。がんばれよ」
「うんうんありがとー!!!」

ヒイヒイ言いながらパソコンに向かう。でも、委員長の去り際に「忘れてね」と念押しすることは忘れなかった。

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