焦り
修学旅行当日の朝の駅。集合場所にはもうほとんどのクラスメイトが集まっていた。
今日から伊咲とホテルで二人きり。昨日から考えることはそればかり。間違いを犯してしまったら、想像して背筋が凍った。
この四日間、どうにか二人だけでいる時間を減らさなければ。
思考を悶々と巡らせていると、遠くのほうに、彼女の姿が見えた。真っ赤なキャリーバッグを重そうに引きながら、小走りでこちらへ駆け寄ってくる。
一気に緊張感が高まる。
彼女は集合の列に紛れると、笑顔で私に言った。
「寝坊しなかったんだね!」
寝坊どころか、考えすぎて眠れなかったよ。と、心の中で呟いた。
「寝坊したら置いて行かれる」
「寒いの嫌いなら、ちょうどいいんじゃない?」
「嫌だよ、伊咲との初旅行なのに!」
つい口走ってしまった。彼女はその言葉をしっかり耳にすると、目を丸くしてこちらを見ている。しまったと思っても、もう遅い。次第に彼女が口を開いた。
「理解してないようだから一応確認するけど、修学旅行ですよ」
「いや、はい、分かってます……」
「よかった。頭おかしくなったのかと思った!」
言うと彼女は心底楽しそうに、ケラケラと笑い始めた。思ったほど、彼女は気にしていないようだ。気張りすぎたらしい。
どうか、羽目を外さないようにと心中で固く決心し、バスに乗り込んだ。車内では、二人して騒ぎ立てた。そうでもしなければ、二人でいることを意識しすぎてしまいそうだった。
どうか、彼女に伝わらないように。そう願いを込めて、窓の外の景色に目を輝かせる彼女の背中を見つめた。
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