憤り




北海道。修学旅行の一日目は、小樽市内の観光だった。といっても、空港からホテルまでの移動距離がとても長かったため、自由時間はわずか一時間半。

この旅行はスキー合宿がメインのため、自由時間はこの一時間半と、帰りの空港での一時間のみ。

これほど制限の多い修学旅行があったものかと言いたいところではあったが、今の僕は、柄にもなく浮かれていた。

生まれて初めての大地、スキー、新鮮な空気。どれもが胸を弾ませるものばかり。加えて隣には親友がいる。心躍らないはずがなかった。

小樽市内では、限られた時間で慌ただしく観光をした。僕がどうしても行きたいと無理を言って親友を引っ張り連れ出したのは、オルゴール堂。

店内は、外とは切り離されたような、幻想的な世界が広がっていた。様々な形を成したオルゴールたちは、どれひとつとして同じ色を奏でない。とても興味深かった。

集合時間二十分前になり、僕たちは土産物屋に向かった。ご当地のキーホルダーや、Tシャツ、お菓子などを見ながら、二人で色々な話をしていた。

ふと後ろを振り返ると、いつの間にか親友の姿は、そこにはなかった。すぐ近くから彼女の笑い声が聞こえたため、僕は何気なく、声のする方へ駆け寄った。

そこには、親友と、その恋人の姿があった。

彼は何やら彼女に声を掛けながら、そっと親友の頭に触れた。彼女もその手を受け入れたまま、少し紅潮した顔で、彼を見つめていた。

胸が締め付けられるのを感じた。同時に少しの苛立ちも覚えた。

感情を隠すように、僕は二人からできるだけ離れた位置の陳列棚を見ていた。見ているはずなのに、視界が物を捉えてくれない。

彼が親友を好きでいることは前から分かっていたことだし、親友がそれに対して満更でもないと思っていることも分かっていた。以前から二人の距離は近くにあったのに、どうして今更こんなことで傷ついてしまっているのだろう。

悶々としていると、背後から声がした。


「お土産、決まった?」


気付けば、僕のすぐ後ろに親友は立っていた。


「愛羅ちゃんは買わないの?」
「うーん、まあ、空港で何か適当に買うよ」
「じゃあ、その時でいい」
「そう?」


先程のことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。そのせいで、親友の顔をまっすぐに見ることが出来ない。

時間もギリギリに押し迫っていたため、僕たちはバスへ戻ることにした。親友はその間も、いつもと変わらず、冗談を織り交ぜながら、楽しそうに話をしていた。誤魔化すように作り笑いを浮かべて、相槌を打っていた。

ホテルに着いて、学校指定のジャージに着替え、すぐに食堂へ向かった。夕食もあまり喉を通りはしなかった。

どうしても、あの光景が頭にこびり付いて離れない。

部屋に戻り、親友より先に入浴を済ませた。親友が入浴を済ませている間、僕は自分のベッドに転がり、スマートフォンの液晶画面を眺めたりしていたが、何故だか急に心細くなり、親友のベッドに移った。

浴室からは、彼女がシャワーを流す音が聞こえる。

枕をぬいぐるみ代わりに抱いて、彼女の帰りを待っていた。一人になると考えてしまうのはやはり彼女のこと、そして、彼のこと。

やはり、僕の親友に対するこの感情は、恋心であり、あってはいけないものだったのだろう。二人の邪魔をしたい訳ではないし、僕にはまだ、友達という立ち位置が残されている。

それでいい、それでいいんだと言い聞かせながら、遠のいていく意識の中、僕は重たい瞼を閉じた。










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