作り笑い



修学旅行を目前に控え、浮足立った教室の空気。臨時に開かれたホームルームでは、ホテルでの部屋の割り振りを決めることとなった。

先程から視界の端に、僕がどうだと色々討論する元友人たちの姿が映っていた。

本人のすぐ傍で、そういうことを平気で言ってのける彼女たちに、僅かに失望を感じた。邪険に扱われるくらいならいっそ、こちらから無視を決め込もうと思った。

グループの中でも仲の良かった一人が、遠慮がちに僕に声を掛けた。


「伊咲、私たちと部屋……」


僕はその言葉を遮るように声を発した。


「愛羅ちゃん、二人部屋取ろう!」


彼女たちの驚く顔が見えた。僕がここまであからさまな態度を示すとは、夢にも思っていなかったのだろう。

正直、悩みはあった。

それでも無理をしてまで付き合うことに嫌気がさしていたし、話すことでストレスを感じるくらいなら、その方がいいと思った。

親友は突然の言葉に、困惑の色を見せた。


「もしかして、先約ある?」
「いや、無いけど……」
「ならいいよね、二人部屋余ってるし」


浮かない顔。今まで何度もお互いの家に泊まり、二人で遊ぶこともあった。今更そんな曖昧な返事をされるとは、思いもしなかった。


「嫌そう……」
「そんなことないよ! そうじゃなくて……」


それっきり、言葉を濁された。訳が分からない。感情に探りを入れる様に、親友の顔を見つめていた。

やはり僕は、僕が思っているほど、君に好かれてはいないのかもしれない。そう思うと、この先が不安で仕方なかった。

もし仮に僕のこの想いが、本当に恋心だとしたら、どうすればいいのだろうか。できればこの想いは嘘であるようにと願いながら、見つめていると、お互いに視線がぶつかり合った。

親友は、にっこりと微笑み返してくれた。


「胡散臭いな」
「そう?」
「作り笑い見せられても、嬉しくないから」
「そんなつもりじゃないんだけどなあ」


本当は、笑顔を見れば安心するし、受け入れられているような錯覚に陥る。だからこそ、作り物で満足したくはないし、そんなもので射止められる自分自身に腹が立ってしまうのだろう。

誤魔化すとき、嘘をついたとき、涙を我慢するとき、キライを隠すとき。全部わかるのに、僕に向けた笑顔だけは、どうしてもわからない。

言葉にするならば、戸惑いを隠す、悟られないようにする、そう言った表情だった。何かを隠している。そう分かっていても聞き出すことが出来なかった。

ここまで分かっているのに、どうして決定打に欠けるのだろうか。何に悩んで、何に戸惑って、何を隠しているのだろう。

答えを導き出せないその難問に、頭を痛めながらも、親友と二人で過ごせる四日間を想像し、期待に胸を弾ませた。

寒いの嫌だな、なんて笑う親友に安心感を覚えた。










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