誓う




伊咲から、急な告白を受けた。文字通り、告白。聞き間違いだろうか、これは夢なのだろうか。私は昨日から、長い長い、夢の最中に居るのではないだろうか。

そう思い、手の甲に爪を立ててみるが、感覚はやはり本物で、目の前の彼女は、確かに存在していて、今にも消えそうな声で、私に思いの丈をぶつけている。

どう、声を掛けていいのか分からない。

嬉しいと言うよりもむしろ、困惑の方が強かった。絶対に届かないと思っていた彼女が、今まさに、私の手の内に飛び込もうとしていて、待ちに待った瞬間なのに、どうして声が出せないのだろう。

私の手は、僅かに震えていた。頬が少しずつ紅潮していくのが分かった。

必死で言葉を探し出し、声にした。


「えっと、ごめん……」


頭の整理をつけたくて、答えを保留した。それを聞いて彼女は、今にも泣きそうな表情を浮かべ、更に肩を落とした。


「……そうだよね、ごめん」
「待って、違うの。そうじゃなくて……」


しっかりと、順序立てて話したい。そう思うのに、殊の外私の気持ちは混乱していて、言葉が上手く出てこない。

私も君が好きなのに、私なら君を幸せに出来るのに。何度もそう思ってきたのに、この期に及んで足が竦んでしまう。

俯き苦し気な顔のまま、私の言葉を待つ彼女に、そっと近づき抱き寄せた。

びくりと跳ねる彼女の肩。深呼吸をして、言葉を紡いだ。


「言わせてごめん。私もね、私も、伊咲が好きだよ」


彼女は勢いよく私の体を剥がすと、目を丸くして、そこから大粒の涙を零した。

そんな顔をさせるつもりはなかったのに。夢にまで見たこの瞬間は、想像より何倍も辛く、何倍も痛く、何倍も、格好悪いモノだった。

泣かないで、そう呟いて彼女の涙を指で拭う。彼女はそれを受けると、更に大粒の涙をぼろぼろと零した。そんな彼女を受け止めながら、高揚する心の片隅で、これから先のことを考えていた。

彼女はひとしきり泣き終えると、しゃくり上げながらぽそりと吐いた。


「愛羅ちゃんには春樹が居るでしょ」
「ああ、あいつは私が伊咲のこと好きって、ずっと前から知ってるよ」


当て馬ってやつかな、と付け足すと、彼女は唖然としたまま暫くの間私を見つめ、最低だよと呟いた。


「本当に、自分でもそう思うよ」


軽く笑って見せても、彼女は笑顔も見せないまま、深刻な顔をしていた。


「可哀相、とか、思うこと自体が失礼だろうけど、何だか罪悪感覚える」
「大丈夫、ちゃんと話すから……。ごめんね」


そうこうしている間に、集合時間が押し迫っていた。私たちは急いで身支度を整えると、ロビーへ急ぐ。

それからの彼女は、上機嫌で周りと接していた。時折目が合うたびに、柔らかく微笑む彼女に、より一層強い想いを募らせた。

これからは、しっかりと、私が彼女を守っていこう。頬を赤く染める彼女の笑顔にそう誓った。










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