エピローグ



修学旅行から数日後、私は放課後の教室の片隅に、彼を呼び出した。一緒に帰ろうと声を掛けると、彼は快く承諾してくれた。

駅までの帰り道、黙って隣を歩く彼に心を痛めながらも、頭の中で切り出す言葉を考えた。

駅に着くなり、帰ろうとする彼を呼び止める。彼は重たい足をぴたりと止めると、ゆっくりこちらを振り返った。その顔は、僅かに悲しみを抱えていた。


「春樹に話がある」
「うん、何となく分かる。……上手く行ったんだな」
「……うん」


声が震える。罪悪感と自責の念に、今にも圧し潰されてしまいそうだ。


「泣くなよ。良かったじゃん、両想いになれて……」
「春樹、ごめん」


彼は一度私の頭を撫でると、優しい声で、いいよと呟いた。


「その代わり、ちゃんと幸せになれよ」
「分かってるよ、ありがとう」


するりと私の頭から掌を落とすと、最後ににっこりと笑顔を浮かべて、じゃあ、と言うと彼は足早に去ってしまった。

彼の優しさに、自分の醜さが比較されてしまい、より辛く感じた。

その時、ポケットの中のスマートフォンが揺れた。伊咲からの着信だ。私はすぐさま受話器を取ると、できるだけ明るい声で応えた。

しかし、電話の向こうの彼女は、不安げな声で呟いた。


「……泣いてる?」


鋭い彼女は私の声に、たったひとことの挨拶にさえ、違和を感じたらしい。


「伊咲、聞いて。今春樹と話したよ」
「そっか」
「それでね、伊咲。改めて、言いたいことがあります」


彼女は小さく、うん、と言うと、私の声に耳を澄ませた。

私は大きく深呼吸をすると、高鳴る胸を抑え、精一杯に声を絞り出した。


「私と、付き合ってくれませんか」


電話の向こうの彼女は、数秒間押し黙った後、ふと笑って言った。


「よろしくお願いします」


見上げた空は綺麗な茜色に染まり、辺り一面を朱く朱く照らしていた。











   ─ 完 ─



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。











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