星空の下、眠らない君と

夜中の1時を回った頃、昼間はたくさんの賑やかな声が飛び交いあたたかな印象を受ける玉狛支部といえども、この時間ともなると窓から差し込む僅かばかりの光と静寂に包まれていた。

そんな暗闇の中、彩葉は作ったばかりの冷たいカルピスが入ったグラスをふたつ両手に持ち、トン、トン、と音を響かせながら屋上へと繋がる階段を上がっていた。もうすっかり目が暗闇に慣れたとはいえ足元はあまりよく見えないため、躓かないように気を付けつつ歩いていく。

両手が塞がっている彩葉は半開きになって少し光が漏れている扉を肩で押し開けると、その先に目当ての人物を捉えた。
いつものように屋上の縁に腰掛けていた彼――遊真は、近付いてくる足音に勢いよく振り返ってから、足音の主が見知った人物であることに気付くと鋭くさせていた表情を和らげた。

「あれ、彩葉さん?」
「やっぱりここにいたんだ〜遊真」
「おれはどうせ部屋にいてもやることがないもので」

隣に並んでから、遊真の横にカルピスの入ったグラスをそっと置いた彩葉は、常に彼の側に付き添っていたお目付役兼相棒であるレプリカの姿がない事に小さく胸を痛めた。直接的な原因ではないとはいえ、レプリカがいなくなってしまったことの責任を感じているからだ。
とはいえ今は後悔をしに来たわけではないと、彩葉はすぐに思考をやめた。

「彩葉さんは寝なくていいの?」
「それがさあ、なーんか寝られなくて。ほら今日ってちょっと暑いじゃない? 多分そのせいだと思うんだよね〜。もう、困った困った」

彩葉が眠れなくて遊真を訪ねたというのは嘘だ。
今この瞬間にも本当の肉体がじわじわと死に向かっている遊真は、常に代わりの肉体であるトリオン体で過ごしているため眠ることが出来ない。人々が寝静まっている間、レプリカという話し相手すら失ってしまった彼が毎晩一人で何を思ってここにいるのかなんて、遊真以外は知るよしもないことだった。
それでも、少しでも遊真が寂しくないように、孤独を感じないようになればいいのに、と思ってしまった彩葉のエゴが彼女を屋上の彼の元へと向かわせたのだ。

それを悟らせない、といってもサイドエフェクトのおかげで遊真に嘘を見抜かれることはないが、違和感を与えないために彩葉はいつものように気さくな先輩らしく振る舞う。

「ふむ。でも眠れないことと彩葉さんがおれを探していたことに何か関係があるのか?」

不思議そうに言った遊真がカルピスを手に取って「いただきます」と喉を潤すのを横目に、彩葉はゆるりと笑みを浮かべた。

「あるんだな〜それが。遊真にはね、私が眠くなるまで話し相手になってもらいたかったんだよね」
「なるほど。そういうことならおれでよければいくらでも付き合わせていただきます」

キラリ、と効果音が聞こえてきそうな表情をした遊真が、空いた手でビシッと敬礼をしてみせる。

「ふふっ、遊真ならそう言ってくれると思ってた」

どこか機嫌の良さそうな彩葉の気持ちを表すように、手の中のグラスがカラン、と軽やかな音を立てた。


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