星屑の限りをそそぎ
次の日の夜、俺たちは、かつて天体観測をしたあの公園へとやって来た。
成長した今ここへ来ると、遊具はどれも小さく寂れて見えて、どこか月日の流れを感じた。
「滑り台ってこんな小さかったんだね」
なまえも同じことを思ったのか、どこかはしゃいだ調子で言った。滑り台まで駆けていくなまえの髪が、公園の頼りない外灯の光を受けて不思議な輝きを放つ。さらさらと揺れるそれは、あの頃と何ひとつ変わらない。
「へぇ、あのベンチまだあるんだ」
「もうボロボロだけどね。懐かしい......」
なまえがぼそりと呟いて、俺をそちらへと促したので、昔みたいに並んで座った。
あの時と違うのは、ここに春市がいないこと。今日は星がよく見えないこと。それから、俺がなまえの抱える想いを知っているということ。
なまえは、はぁっと手のひらに温かい息を吐いた。
「昔、三人で星見たよね」
「そうだね」
「あの時はたくさん見えたのに、今は全然見えないね。天気が悪いわけじゃないのに」
「今日は月が明るいからだよ」
なまえは「そうなの?」と目を瞬かせた。
あんなに星が見たいと言っておいて、未だに星の見えやすい気候や条件も知らないんだ、こいつは。
「ねぇ、亮介。昨日の答え、考えてくれた?」
俺はイエスともノーとも言わなかった。けれどもう、答えはすでに自分の中にある。
逆光ぎみのなまえのかすかな笑顔。俺はやっぱり、この口許はよく似ているなと思った。
それからなまえは、緩慢な動きで持っていた小さなトートバッグの中から何かを取り出した。その手元で、鈍く光る黒。
それは鋏だった。母さんの手芸用の、黒い柄の立派な布断ち鋏。その華奢な手には、ずしりと重くて不釣り合いなそれが、しっかりと握られている。なまえは、刃の部分に被せられたケースをすっと抜いた。
「亮介。私が今、望むことがわかる?」
眩しいほどに反射する切っ先。それが、不思議なほどに現実味を奪っていく。
俺はその時なぜか、あの双子座の神話を思い出した。けれど兄である俺は死んでもいないし、ここにゼウスはいない。二人で星になる必要もない。それでもなまえの目は、弟の星ポルックスのような眩いほどの輝きに満ちていた。
渡されるまま無機質で冷たい鋏を受け取ると、そこから一気に体温が奪われていくように感じた。
ーー俺は俺の、できうる限りを尽くそう。