と星とを繋ぐのは


 鋏を受け取った亮介は、ためらいなく実行した。まるで死刑執行人のように。私はベンチに座り、ただ夜空を見上げていた。背後からは、しゃきっという小気味いい音だけが響いて、澄んだ冬の空気に調和する。

「なんでこんな鋏持ってきたの? 髪なんか切ったら刃がダメになるよ」

 亮介は呆れたように言い、それでも鋏を動かした。

「ふふ、亮介をひびらすために一番立派なの選んだの。無理心中でもすると思った?」
「......ほんと、性格悪いよね」
「亮介に言われたくない」

 砂地にさらさらと、自慢の桜色が落ちていく。亮介と離れるために、この人を思い出すような荷物は、できるだけ捨てなくてはならない。

「twinkle twinkle〜」

 私はあの歌を口ずさみながら、亮介のされるがままになっていた。鋏は迷いなく入れられて、私の体の一部だったそれらは、あっけないほど簡単に持ち主の元を離れていった。

「終わったよ」

 凛としたその声に、目を開けた。自分の頭は今、不思議なほどに軽い。

「すごい短くなった気がするんだけど。もしかして亮介くらい?」

 振り向けば、一切の容赦がない片割れの笑み。

「鏡見たら、驚くよ」
「え?」

 その意味深な言葉に、もどかしい気持ちでバッグから鏡を取り出す。そしてそれを覗きこんだ瞬間、はっと息を飲んだ。

「春市そっくり......」

 髪を切った私は、亮介というより春市と双子と言った方がいいくらい、春市に似ていた。
 でしょ、と笑って亮介が鋏をケースに収める。それから私の瞳をまっすぐに捉えて、言った。

「なまえ。俺たちは、全く別の人間だよ」
「そんなこと......」

 知ってる、って肯定したいのに言葉にならない。私はもう、知ってる。この気持ちが依存だということ。亮介には私のような気持ちはないこと。もう、ぜんぶぜんぶ知っていた。この大好きな長い髪で覆い隠して、見えないようにしていただけだ。次々とこみ上げる涙ですら、もはや隠すことはできない。
 亮介は、静かに私の言葉を待っていた。

「私、亮介なしでも生きられると思う?」

 無言でただ、私に向けられた儚い星の輝きほどの笑顔。この人はちゃんと、私の強さを信じているんだ。
 声が、静謐な冬の空気に溶けていく。

「なまえに本当に大切な人ができた時、また伸ばせばいいよ」

 目を閉じると、きらきら瞬く。瞼の裏にあの日の星たちが。

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