どのを君と思えばいい?


「ごめんなさい」

 自分でもひどい演技だったと思う。電話の向こうでは、わかった、と小さく聞こえたあと、ぷつりと切れた。
 駅から戻り、亮介がお風呂に入っている間に私は、自室から電話をかけ、あの告白を断っていた。
 ひどく散らかった心を関係ない他人にぶつける自分は、最低な人間なのだと理解していた。だって、ただ亮介の気を引くためだけに利用したのだから。そして、これからそれを利用しようとしているのだから。
 階段を上る亮介の足音が聞こえ、続いて隣の部屋のドアが閉まる気配がした。私はゆっくり立ち上がり、そちらへと向かう。
 ドアを開けると、ちょうど亮介がベッドのへりにもたれてタオルで髪を拭いているところだった。私はかまわず、亮介の隣に座った。

「告白、断ったよ」

 亮介は私のほうを一瞥したあと、そう、とだけ言った。
 私たちの進学先はすでに決まっていた。互いに地方の大学へ進むから、ここまま行けば、決定的に私は亮介と離れてしまう。そこに待ちうけるのは絶望か、安息か。

「何がダメだったの?」

 亮介の疑問に、私は何と答えたらいいのかわからなかった。ただ無性に、その濡れた髪に触れたいと思った。

「何が、じゃないよ」
「うん」
「うまく言えないけど全部」
「......ほんと、うまく言えてないね」

 亮介じゃないといけない理由なんてわからないのに、絶対に亮介じゃないといけない。代わりなんていない。私の抱えるこの大きすぎる荷物を、この人の前で解いたことはないのに、この人はちゃんと、その中身を知っている。

「なまえ、このままじゃずっと彼氏できないよ」
「別にいい」
「へぇ、一生独り身か」
「......春市に介護してもらうから」
「なにそれ」

 ふっと笑って遠くを見る。こうやってここで話をするのも、もうあと数えるほどだろう。

「野球、続けるんだよね?」
「もちろん」
「そっか」

 双子の私たちは離れてしまうのに、皮肉なことに、幼い頃から一緒だった野球を亮介は手放さない。私が双子の妹じゃなくて、野球ならよかったのに。そんなどうにもならないことを、ぼんやり考えていた。

「ねぇ......」
「ん?」
「手放したくないものを手放さなきゃいけない時、亮介ならどうする?」

 三角座りをしてわずかに顔を伏せると、自身の桜色がぱらりと膝にかかった。
 亮介と同じ色のこの髪が好き。だから私は、昔から長いままだ。


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