結ばれないどうし


 ざわざわ無数の人の群れ。
 亮介が帰る時間を教えてくれなかったから、私は夕方五時からずっと駅で待っていた。あの人は昔からいじわるなのだ。
 電光掲示板で電車の到着時刻を確認し、改札から吐き出される人々の群れからあの人を追い求めては落胆する。外ではまだ、予報の雪はちらついていなかった。
 それからしばらく経ち、十数度目の乗客を見送ってやっと、あの桜色を発見することができた。駅の構内には簡単に冬の寒さの手が伸びてきて、私の体温を容赦なく奪う。
 私を発見した亮介は、ぴたりとその足を止めた。

「亮介」
「......なまえ。迎えはいいって言ったじゃん」
「行かないなんて言ってない」

 亮介は一瞬表情を止めたあと、あきらめたように息をついた。

「行こ」

 私はその手を取って強引に歩き出す。冷たい手で握ったにもかかわらず、その手はそれを拒否しなかった。
 クリスマスは終わったけれど、お正月まであと少しという時期の駅前の街並みは、どこか中途半端な明るさで溢れていた。

「髪、伸びたね」

 私より少しだけ高いところから放たれる声が心地いい。隣でかすかに揺れる、桜色の襟足。私ももっと長くて同じもの、持ってる。

「うん。この間、きれいだって褒められたよ」
「ふぅん」

 誰に、って聞いて。そんな風に笑って、なかったことにしないで。

「......その褒めてくれた人が、付き合おうって言ってくれたの」

 今度は、ふぅん、で片付けなかったけれど、つかの間無言になった。
 今日は空の色が重すぎて星が見えない。だから今はひどく苦しい。
 それから亮介は静かに、いいんじゃない、と言った。一呼吸置いて

「付き合えば」

 とも付け足した。
 雪が、私を一気に攻め立てるようにちらつきはじめる。けれど、傘は差す気には到底なれなかった。
 私の手がどんどん亮介の熱を奪っていく。震える手でそれを握った。きつく、強く。けれど、拒否はしないかわりに、握り返してもこなくて、次第に心が押しつぶされそうになっていく。

「いいの? ほんとに、いいの?」
「......何が?」

 私は亮介のいろんな笑顔の意味をちゃんと知ってる。それは双子ゆえのテレパシーみたいなものと、一緒に過ごしてきた時間によるものだ。
 この夜空の雲が晴れれば、きっとそこには、絶望の深淵が仄暗い口を開けて待っているだろう。
 私が結ばれたいのは、私の髪を褒めてくれる人じゃない。私と同じ髪を持った、この人だ。


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