しりとり


 部屋の窓を、鉄砲のような雨が勢いよく叩いている。たまに強さを増したり、かと思えば弱々しくなったり。けれど依然として、雨は止む気配がなかった。

「止まないねぇ」
「おー」
「退屈だねぇ」
「んじゃ、パワプロ」
「すぐ負けるから嫌」

 なまえは南向きの大きな窓に向かって三角座りをし、外の雨を睨みつけていた。昔から雨が嫌いで、雨天のため外で練習ができない時も、こいつはよくこんな顔してたっけか。
 が、突然なまえが身体ごとくるりと振り返った。

「ヒマだから野球しりとりしよ」
「あ? 野球?」
「じゃあ私から。『スピッツ』」
「しょっぱなから野球じゃねぇ!」
「いいからいいから。野球用語ならなんでもオッケーってことで」

 そう言って軽く手を振る。
 まぁ、スタートはなんでもいいか。

「んじゃ、『ツーアウト』」
「と、と、『盗塁』」
「『イニング』」
「ぐ、ぐ、ぐぅ……」

 自分からやろうと言い出したクセに、早くもつまずきつつある。なまえはなおも腕を組んでぐぅぐぅ唸っていた。
 しょうがねぇ、ヒントやるか。
 俺はひとつ息をつき、左手を上げて手のひらをパクパクと動かす。

「『グローブ』!!」

 キラキラした目でなまえが声をあげた。
 ――しかし、だ。今度は俺が唸る番だった。「ブ」のつく野球用語ってなんだ? 安易になまえへヒントを与えたばかりにこんなことになっちまった。

「ぷぷ。『ブーメラン』。私にヒントを与えたばっかりに……」
「ちくしょー……待てよ、すぐ思いつくから」

 俺は、ブ、ブ、と呟きながら野球をしてる気になって色々と思い返してみる。ポジションはどうだ? ピッチャー、キャッチャー……いや、「ブ」のつくポジションはねぇな。じゃあ道具はどうだ? バット、ボール……濁点はつくけど「ブ」は思い浮かばねぇ。けど、実際に野球をやる俺の方が負けるのはシャクだった。何か、何かねぇか。

「ヒントあげるね」

 なまえが得意げに笑って、人差し指をくるくる回す。

「そこはバッテリーしか使わない場所です」
「場所?」
「主にするのは投球練習」
「わかった! 『ブルペン』!」

 叫んだ瞬間、思わず口を押さえた。――しまった。
 なまえの口許が徐々にニーッと上がる。

「やーい、引っかかった」
「くっそ!」


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