しゅうかつ


 今日は、来たるべき就職活動のためにスーツを選びに来た。私はもう用意したけれど、純はどれを選ぶべきか困り果てていたので、一緒について来たわけだ。まぁ、“どれを”といっても、男子の就活スーツなんかほぼ黒の無地一択だろう。お店側が推している大学生向けリクルート◯点セットを素直に選んでおけば間違いない。
 店員さんの就活スーツについての説明に、私と純はふむふむと耳を傾けていた。

「ふぅん。純は標準体型だからわりと選び放題なんだね」
「まぁな」

 少しだけ苦々しげに呟く純。本人としては、もっと身長が欲しかったというところだろう。夢の170p代まであと1pなのに、あとわずか届かないところが何というか純らしい。
 説明を聞き終えて二人でぶらぶら店内を見て回る。当たり前だけれど、女性物みたいに色鮮やかでもないから、面白みがなくすぐに飽きてしまう。

「でもさぁ、増子くんなんか縦も横もあるからサイズ少ないんじゃない?」
「まぁな。一時に比べりゃ痩せたけど難しいだろーな」
「小湊くんとかも難しそう」
「亮介がスーツかぁ。......なんか想像つかねぇな」

 私も純もしばらく無言になる。

「ごめん。なんか千歳飴持たせたくなるイメージだった......」
「......お前、ぜってぇ本人にそれ言うなよ」

 店内を一通り散策したあと、いよいよスーツの試着だ。私はフィッティングルームの前で、わくわくしながら待機していた。こういう時、普段とイメージががらりと変わった彼氏が現れて、不覚にもときめいてしまう。これぞ少女マンガのお約束!

「純どう? 開けるよー」
「おー」

 了解を得たので、私はフィッティングルームの扉をゆっくり押し開けた。
 そこに立っていたのは――

「お疲れさんス! 兄貴!」
「誰が組のモンだ!!」

 純の姿が視界に入った瞬間、体が勝手にお辞儀をしていた。
 スーツを着たこのヒゲの強面男、どう見ても堅気の職業には見えない。私のボケに瞬時に対応してくれるあたり、付き合いの長さをひしひしと感じる。

「うーん、サングラスあれば完璧なのに」
「そっちの完璧にもってくな! そんならネクタイ探せネクタイ!」
「ラジャ!」

 スチャッと敬礼ポーズをしたあとすぐ、私はネクタイを探しに店内を回った。
 おお、あそこにちょうどよさそうなものが......

「なんだ、これ」
「似合いそうだと思って」
「なまえ、今日の目的言ってみろ」
「就活スーツです」
「こんなド派手な紫のネクタイなんか締めたら、一発で落ちんぞ」
「まぁまぁとりあえず」

 私はネクタイを締めてあげようと、純に一歩近づいた。首元に手を伸ばして襟を立て、ネクタイを巻きつける。

「あれ? これ逆だっけ?」
「なまえやったことねぇのか?」
「だって高校はリボンだったし」

 人にネクタイをするのは思いのほか難しい。何度か挑戦するものの、形が変だったり下の方が長くなったりする。

「うまくできない〜」
「俺がやっから貸せ」
「いや、もうちょっと」

 しばらく格闘していると、ふと、これってちょっと新婚夫婦みたいだなぁと気がついた。
 ああ、またバカな妄想をしてしまった。
 それを振り払うようにぷるぷる頭を振って純の方に視線を戻す。すると――純の方もこころなしか、ほんのり顔が赤い。

「......今、夫婦みたいだって思った?」
「バカヤロ、んなわけ」

 どうやら図星みたい。


prevnext
indextop

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -