ごっこ


「あ〜、少女マンガみたいな恋したいなぁ......」

 純の部屋のソファでごろりと寝転んで少女マンガを読みながら、思わずつぶやいた。

「あ?」

 純も私と似たり寄ったりな姿勢で、ベッドに転がって同じく少女マンガを読んでいる。

「なまえ......」
「違うって!」

 純と別れて、一から他の男の人と少女マンガみたいな恋をして結ばれたいと言っているわけじゃない。ただ、あのこそばゆいようなシチュエーションに憧れるという話だ。
 ――という旨を説明した。

「こう、食パンくわえて朝家を出るの。『やだ、遅刻しちゃう!』」
「あー、昔の少女マンガあるあるだな。ジャムは当然、イチゴで」
「うん、マーガリンなんて邪道だよ」

 私が今、手に持っているのは二十年以上前の少女マンガ。ちなみに、純の実家から送られてきたものだ。

「んで、角でドーンってぶつかんだろ。男と」
「そう。 さぁ、純! 尻もちついた主人公に向かって一言!」
「は? ええ、あーと......」

 純は照れながらも懸命に考えている。

「『どこ見てんだコラァ!!』」
「............」
「......んだよ」

 私が渋い顔をしたものだから、純が怪訝そうにこちらを見た。少女マンガを絵本に育ったといっても過言ではない純には、絶対の自信があったんだろう。

「う〜ん。第一印象は最悪、仲良くなってから好感度アップのお話ならそれでオッケーなんだけど」
「なんだよ」
「その強面で言われると、ガラの悪いドライバーみたいだなぁと思って。『どこに目ぇついてんだコラァ!』みたいな」
「んだとテメェ!」
「あはは。それそれそんな感じ」
「別にマネしてるわけじゃねぇ!」

 私はエキサイトする純を、どうどう、と落ち着かせた。

「俺は馬か!」
「ごめん、犬だった」

 私がそう返すと、純はあきらめたようにため息をついた。何を今更。
 それにしても、純ほど少女マンガを愛している男子はそういないだろうけれど、純ほど少女マンガの相手役に似合わない男子もいないだろう。ヒゲだし、三白眼だし、だいたい顔が怖すぎる。
 それから私たちはまた、少女マンガごっこを再開した。

「主人公は実は転校生。不安でいっぱいの自己紹介。やっと席について隣を見たらなんと......!」
「今朝の暴走女!」
「今朝のヒゲ!」

 目が合うと、どちらからともなく吹き出した。
 少女マンガにヒゲの男子なんてありえないかもしれないけれど、それでもやっぱり、私は純が好きなんだ。


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