ぺあるっく


「じゃーん! これ純にプレゼント」
「お?」

 私は紙袋から一着のパーカーを取り出し、純の目の前で広げて見せた。英字ロゴがポイントの、いたって普通のパーカー。昨日私が買ったものだ。

「へぇ、いいじゃねぇか。ありがとな、なまえ」
「へへ」

 純はパーカーを体に当てたりして、喜んでいる様子だった。だけどすぐ

「そういや、誕生日でもねぇのにどういう風の吹き回しだ?」

 確かに純の言うことはもっともで、今日は何の記念日でもない。ではなぜ私がこんなプレゼントをしたかというと――

「じゃーん!」

 私はウキウキしながら、同じ袋からもう一着を取り出した。
 すると、それを見た純の顔色がさっと変わる。

「それ......女物、だよな?」
「モチロン」

 純が疑問に思ったのも無理はない。なぜなら今私の持っている方は、純のものとデザインがまったく同じだからだ。

「これ明日のデートで一緒に」
「断る!!!」

 着よ、と言いたかったのに、続きを遮られてしまった。

「えー、なんでよ〜」
「ペアルックなんて何年前のブームだよ! 80年代の少女マンガか!」

 興奮する純を尻目に私は、チッチッチ、とたしなめた。

「ところがどっこい純さん。今、ちまたではペアルックの再ブームがきてるんですよ」
「再ブームだぁ?!」
「街でもたまに見かけるし、そんな恥ずかしいことじゃないんだよ」
「恥ずいわ!」

 純は一喝したあと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
 あーあ、結城くんとかなら「そうなのか......!」って素直に納得して着てくれそうなのに。やっぱり純では難しいみたい。



 翌日。私は例のパーカーを着て、純のマンションの前で待っていた。純が着てくれるとは思わなかったけれど、万に一つの可能性に賭けて。
 するとその時、背後から聞き慣れた足音がしたので振り返ると

「あっ!」

 そこには、あのパーカーを着た純が、恥ずかしそうに頭を掻きながら立っていた。

「わぁ、着てくれたんだ。ありがと!」
「べっ、別にたまたまだ! たまたま今日、お前と格好がかぶっただけだ!」
「うん、かぶっただけだね。うん」

 顔を真っ赤にしながら、周囲をキョロキョロ見回す純がなんだか可愛い。

「じゃ、行こっか」
「お、おう」

 私は隣のたくましい腕に自身のそれを絡め、ゴキゲンな気分で歩きだした。まさか本当に着てくれるなんて思わなかったから。
 純はしばらく体を縮こめて、うつむき加減で歩いていた。けれど駅に近づくにつれ、徐々に人が増えてくると、その足がぴたり止まった。表情も、不自然なくらい固い。

「悪りぃ。もう限界だ......」

 と苦しげにつぶやいて、足早に来た道を引き返していく。

「じゅ、純? ちょっと!」

 結局、恥ずかしさに耐えかねた純が、自宅まで戻ってしまったので、私もそのあとを追うしかなかった。そして部屋に入ったあとも、自己嫌悪のように頭を抱えて落ち込んでいた。
 私はその肩にそっと手を添える。

「大丈夫だよ。このままペアルックで自宅デートに予定変更ってことでいいんだから」

 悪りぃ、と繰り返す純に、私は無理やりぎゅうぎゅうと抱きついた。するとそのまま優しく抱き返してくれたので、更にぎゅうとお返しする。おんなじ服を着た私たちは、まるでひとつの生き物になったようだ。


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