ぺあるっく
「じゃーん! これ純にプレゼント」
「お?」
私は紙袋から一着のパーカーを取り出し、純の目の前で広げて見せた。英字ロゴがポイントの、いたって普通のパーカー。昨日私が買ったものだ。
「へぇ、いいじゃねぇか。ありがとな、なまえ」
「へへ」
純はパーカーを体に当てたりして、喜んでいる様子だった。だけどすぐ
「そういや、誕生日でもねぇのにどういう風の吹き回しだ?」
確かに純の言うことはもっともで、今日は何の記念日でもない。ではなぜ私がこんなプレゼントをしたかというと――
「じゃーん!」
私はウキウキしながら、同じ袋からもう一着を取り出した。
すると、それを見た純の顔色がさっと変わる。
「それ......女物、だよな?」
「モチロン」
純が疑問に思ったのも無理はない。なぜなら今私の持っている方は、純のものとデザインがまったく同じだからだ。
「これ明日のデートで一緒に」
「断る!!!」
着よ、と言いたかったのに、続きを遮られてしまった。
「えー、なんでよ〜」
「ペアルックなんて何年前のブームだよ! 80年代の少女マンガか!」
興奮する純を尻目に私は、チッチッチ、とたしなめた。
「ところがどっこい純さん。今、ちまたではペアルックの再ブームがきてるんですよ」
「再ブームだぁ?!」
「街でもたまに見かけるし、そんな恥ずかしいことじゃないんだよ」
「恥ずいわ!」
純は一喝したあと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
あーあ、結城くんとかなら「そうなのか......!」って素直に納得して着てくれそうなのに。やっぱり純では難しいみたい。
*
翌日。私は例のパーカーを着て、純のマンションの前で待っていた。純が着てくれるとは思わなかったけれど、万に一つの可能性に賭けて。
するとその時、背後から聞き慣れた足音がしたので振り返ると
「あっ!」
そこには、あのパーカーを着た純が、恥ずかしそうに頭を掻きながら立っていた。
「わぁ、着てくれたんだ。ありがと!」
「べっ、別にたまたまだ! たまたま今日、お前と格好がかぶっただけだ!」
「うん、かぶっただけだね。うん」
顔を真っ赤にしながら、周囲をキョロキョロ見回す純がなんだか可愛い。
「じゃ、行こっか」
「お、おう」
私は隣のたくましい腕に自身のそれを絡め、ゴキゲンな気分で歩きだした。まさか本当に着てくれるなんて思わなかったから。
純はしばらく体を縮こめて、うつむき加減で歩いていた。けれど駅に近づくにつれ、徐々に人が増えてくると、その足がぴたり止まった。表情も、不自然なくらい固い。
「悪りぃ。もう限界だ......」
と苦しげにつぶやいて、足早に来た道を引き返していく。
「じゅ、純? ちょっと!」
結局、恥ずかしさに耐えかねた純が、自宅まで戻ってしまったので、私もそのあとを追うしかなかった。そして部屋に入ったあとも、自己嫌悪のように頭を抱えて落ち込んでいた。
私はその肩にそっと手を添える。
「大丈夫だよ。このままペアルックで自宅デートに予定変更ってことでいいんだから」
悪りぃ、と繰り返す純に、私は無理やりぎゅうぎゅうと抱きついた。するとそのまま優しく抱き返してくれたので、更にぎゅうとお返しする。おんなじ服を着た私たちは、まるでひとつの生き物になったようだ。