わんこと共存?4
1時間後。
思いっきり背中で息する真太郎と、相変わらずソファーで澄まし顔の犬。
どちらが勝ったかは明白だった。
「大見さん!」
玄関の戸が開いているか、玄関口から直接呼ばれた自分の名前に、「はい!」と声をあげた。中田という隣の五月蝿いおばちゃんで、この声の雰囲気からすると、今の喧噪に文句を言いにきたに違いなかった。
何かしらに文句をつけないと気がすまない性質なのか、ことあるごとに文句をいいに来る。引っ越してきたその日に、コンポの低音が五月蝿いと文句をいわれ、夜中シャワーを浴びていたら、水音にも文句を言われた。
犬がいるなんてバレたら何を言われるか分かったもんじゃない。
リビングに通じる戸を急いで閉め、向かった玄関にいた中田さんの形相はそれは酷いものだった。
「さっきからドタドタドタドタ子供じゃるまいし、もっと静かに出来ないの!? 朝だからって、五月蝿くして良いってわけじゃないのよ? その辺分かってるの!?」
「すみません」
「すみません、すみません、って大見さんはいつもそればかりですけどね。謝罪だけじゃなくて、行動に移して欲しいわ」
「すみません。次からは気をつけます」
「前もきいたわよ、その言葉」
「はい、すみません」
「子供でも一回言ったら言う事を聞くのよ。何回言っても直らないなんて、反省してないとしか思えないわ」
「すみません。本当に次からは気をつけますから」
「ほんっとあなたはそれしか言えないのね! 今度うるさくしたら、大家さんに言わせてもらいますから、そのつもりでいて頂戴!」
それしか言えないのは、他に何か喋ろうものなら、口の悪さで状況が悪化するのは目に見えている。
「はい、すみませんでした」
ただひたすら平謝りすれば、一通り文句を終えてスッキリしたのか、自分の方こそドタドタと音を立てながら部屋へと戻って行った。