売り言葉に買い言葉



 売り言葉に買い言葉。
 そんな売り言葉を買い、引っ叩いた俺が一概に悪くなかったかと聞かれれば、そんな事はない。

 だけど、今は伊吹を追いかけようとか、謝ったりフォローしたりする気は起きなかった。

 昨日の出来事の後の今日だ。
 心まで暴かれるようなその行為に抵抗が無かった、とは言い切れないし、痛みだって想像以上だった。

 だけど、それでも伊吹の気持ちに応えられるなら良いと思った。


 それなのに、伊吹の反応は全くもって冷淡なもので。性的な面を馬鹿にされるような事を言われる理由も分からない。





 まるで俺が誰とでも寝てるみたいな言い方だった。

 身体の相性が良かった?

 ふざけるな。お前が初めてだったのに。




 こんな事になるなら、あの時踏み出さなければ良かった。

 双子だとか、兄弟だとかいう枠も今は酷く曖昧で。
 なんであの時享受したのかも、曖昧で。
 なんでいつものままでいなかったんだ、とか。
 なんであんな行動をしたのか、とか。


 そう考え始めたら、自分が途方もなく情けなくなってくる。


「ちょ、伊織ちゃん? 伊織ちゃんまでどないしたん?」


 溢れてくる涙を見られたくなくて、すぐに日下から背を向けた。


「ごめん。後から行くから、先に行っててくれ」

「せやけど、」

「俺は別に大丈夫だから。担任に遅刻します、って伝えておいて貰っていいか?」

「それはええけど……、俺で良ければ話聞くで?」

「それなら、伊吹についててやってくれ」

「えっ?」

「多分部屋で泣いてるから」

「それやったら、伊織ちゃんもやん」

「俺は大丈夫だから」

「……分かったわ。なんかあったら、俺か薫ちゃんに電話してな」

「ああ」


 背後で玄関の戸が閉まる音がした。

 息を吐く。

 しかし、吐き出しきれないモヤモヤの塊は、胸に鎮座したままだった。
 どうすれば良いのか、自問自答を繰り返しながら、俺はベッドに深く沈んだ。


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