空気は吸うもの


「……俺が気に入らないのか?」

「違う」

「じゃあ、何が?」

「織には関係、」

「なくないだろ」


 堂々巡りする会話。


「仮にあったとしても、話す義務なんかないよね?」

「そうだな。それなら、もう勝手にしろ」

「……織の分からず屋」

「はぁ?」


 話す義務なんか無いと言ったのは伊吹だ。 それなのに、分からず屋と言われる理由が見えてこない。
 原因が分からない事で、俺も段々と苛々が募る。



 痛々しい空気が部屋に充満していた。



 そんな重苦しい空気が、唐突に入ってきた人物によって一掃される。


「呼ばれて出てきてじゃかじゃかじゃーん! 伊織ちゃん一緒に教室いかへーん?……ってあれ?」


 日下だ。


「もしかして、取り込み中やった?」


 日下の空気の読まなさに、思わずため息をつく。普通の神経なら、ここまで空気を読まない行動はとれない。


「日下、空気読まないってよく言われるだろ?」

「空気は読むもんちゃう! 吸うもんや!」

「威張るな馬鹿」


 もう一度ため息をつきながら伊吹の方に向き直ると、引っ叩いた頬を押さえながら泣いている伊吹に瞠目する。
 ボロボロと次から次へと溢れ出す涙。


「織の分からず屋!大っ嫌いっ!!」


 伊吹が勢いよく部屋を飛び出た。当て馬とばかりに、リビングの扉がバタンッと大きな音をたてて閉まる。


「あかん……弟くん泣き顔可愛すぎや」


 口元を押さえながら、能天気に呟く日下に軽く殺意を覚えた。


←Top[0]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -