平和な朝?3



「……薫の苗字って水無瀬なのか?」


 そう、聞かずにはいられなかった。
 水無瀬は生まれ変わる前の俺の姓。


「ああ。それがどうかしたか?」


 静まれ心臓。
 水無瀬の苗字は、珍しくもないのだから。


「あの水無瀬グループの?」

「一応、な」




 こんな事ってあるのか。
 2日も連続で、前世に関わりのある人と会えるなんて。


 俺が今まで小鳥遊伊織としてやってきた16年間、前世の人に会う事はなかった。勿論、水無瀬の会社は俺が死んだ後に徐々に業績を伸ばし、大手ITグループの親会社として経営するまでに至った事も新聞で目にしたから知っていた。
 会長は源三、かつての父だ。今は取締の役を兄だった雅人がやっているらしい。勿論、隆二の家の高城グループの動向も知っていた。



 本気で会いに行こうと思ったら、いくらでも会える機会はあった。だけど、そうしなかったのは、拒絶されるのが怖かったからだ。

 お前なんか居なくても生きていける。


 その現実を知りつつも、実際に確かめる勇気なんか俺の何処を探してもありはしない。


「伊織?」

「あ、ごめん。なんでもない」


 「そうか」と薫が頷き、トースターからトーストを取り出してくれる。チーズとハムが美味しそうにパンの上に乗っていた。


「将来は会社を継ぐのか?」

「ああ」


その言葉で俺は確証を得た。
俺が死んだ水無瀬に、分家は存在しない。父であった源三も、女兄弟しか居なかったはずだ。


そこから導きだせる答えは一つだった。


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