エスコート術
食事を受け取って、席に移動する。薫が言っていたように、早朝の時間の為か人があまりいない。
「悪いんだが、朝練があるから、教室までは一緒に行けないんだ。代わりに日下(くさか)に案内を頼んでおいたから、部屋で待っててくれ」
どこまで気が効くんだ。
伊吹も割と機転が効く方だが、薫のはエスコートに近いものがある。
似たようなエスコートをする幼馴染を思い出して、思わず笑った。
薫の表情が固まる。
「どうかしたか?」
「……いや、何でも無い。日下はちゃらんぽらんに見えるが、良い奴だ」
薫がそう評価する程の人材だから、良い奴なんだろう。
「分かった、ありがとう」
「大した事ない」
「朝練って、部活何ってるんだ?」
「バスケだ」
その答えに嬉しくなった。
人生を捧げてバスケをしていたくらいだ。都内の高校に、水城学園も入っていたような気がする。18年くらい前の事だから今はどうか知らないが。
背の高い薫なら、
「ポジションはセンターか?」
「よく分かったな。バスケやるのか?」
「昔やってたから」
答えて少しだけ後悔する。やっていたのは、寛人の時だ。伊織になってからは、バスケットボールに触った事もアメリカでの一回位しかない。
「興味があるなら、一回見学にくるか?」
薫の言葉に、半ば反射で頷いたのだった。