理事長
中は他の高校と大差がない、理事長室が広がっていた。差があるといったら、無駄な広さと、調理室が備え付けられている当たりくらい。
デスクに座って、パソコンを見ていた理事長が、ノートパソコンの蓋を閉じる。逆行で顔は良く見えない。
「良く来てくれたね。どうぞ、こっちに座ってくれるかな」
デスクの前の応接セットに促されるままに、俺たちは座る。
「ごめんね、今コーヒー用意するから」
陰になっていた理事長の顔を漸く見たとき、俺は愕然とした。
――高城隆二。
見間違えるはずもない。
18年間一緒だった幼馴染の顔。
20年の歳月が顔に皺を増やしていたが、引き締まった身体のラインはそのまま。歳をとった事により、深みのある大人へと成長していた。
隆二。
思わずそう呟かなかった俺を、褒め讃えてほしい。
小鳥遊になってから、一度も水無瀬だった時の人に会った事はなかった。
同じ東京に住んでいるから会えるのでは。
子供の頃はそう考えていたが、意外に世間は望むものには広く変容するらしい。
生まれ変わってから、一度も忘れた事はなかった。
セピア色に変わってしまった思い出は、今も大事に大事に俺の記憶の中に仕舞われている。