愛されの伊吹
「ここが理事長室だ」
案内されたのは、荘厳な背の高い扉の前。いかにもな風貌に内心苦笑する。
「俺の役目はここまでだから。何か分からなかったら、ここに連絡してくれ」
分かりやすく、伊吹にだけ名刺を渡す。
補足をしておくと、伊吹は人当たりが良い。
俺との能力差を埋める為に、相当努力をしたのだろう。人に好かれるコツを、子供ながらに習得している。老若男女だれからでも、好かれるのだ。
反対に、俺はよくおじさまに好かれる傾向がある。全く嬉しくない事なのだが、おじさまは嫌いではないので、甘んじている節はあるが。
「「ありがとうございました」」
「別に、たいした事はしてないよ」
そう言って、守屋はエレベーターで降りていったのを見送った。
扉に向き直り、俺が理事長室のドアをノックする。
「本日付けで編入してきました、小鳥遊です」
「どうぞ」
その言葉に、失礼します、と中に入った。