編入の真相
「じゃあ、誰が?」
「理事長」
「……は?」
つまりは、この高校に入って実績をあげる事が最大の学園への貢献という事なのだろうか。次の伊吹の言葉に、俺の予想も外れていない事を知る。
世の中そんなうまい話はない。
「君たちの存在は学生へ良い刺激になるだろう。って」
「へえ。それだったら、テストも受けないで編入して良いのか?」
「受けたじゃん。もおー、織はさ、勉強以外の所に対してもう少し興味を持っても良いと思うんだよね」
伊吹に向けられた言葉に若干ショックを受ける。
勉強以外の事は、昔一杯楽しんだからな。あと、勉強してるうちにハマってしまって、他の事をやるより、勉強の方が楽しかったというのは事実だが。
「気をつける。でも、いつ受けた?」
「日本に帰ってくる飛行機の中で」
「あの、ちょっとした暇つぶしって渡されたペーパー?」
「そうそう、それ。暇つぶしも満たないとか言って、織はすぐ終わらせちゃってたみたいだけど。結果はほぼ満点だったんだって。古典がちょっと点数悪かったらしいけど、後は満点だ。って父様もお喜びになってたよ」
古典が出来ないのは、昔からだからしょうがない。これだけは、生まれ変わってもどうにもやる気がしない。アメリカの大学に進んだため、古典なんてのに触れなくて済んだのに。
「伊吹は?」
「俺もほぼ満点。ケアレスが目立つって、父様がちょっとだけがっかりしてた」
伊吹も俺も、大の父親っこだ。
父様が喜んでくれるのが何より嬉しかったりする。「よく出来たな」と、普段はそんなに笑わない父様が、微笑みながら俺の頭をなでてくれるんだ。
なにより、これが45歳なんだろうか、と疑問を持つ位格好いいおじさまなのだ。高級スーツに見劣りしない位のスラリと高い身長に、色素の薄い目。父様は生粋の日本人だけど、結構彫りが深めで、整った顔立ちしている。
段々と毅(つよし)さんに似てきたね、って母様に言われると、年甲斐もなく嬉しくなるものだ。