洒落にならない
「ええと、だからね。編入の手続きを、」
「待て。お前だけじゃないのか?」
「父様にこの事話したら、製薬会社の知り合いに、理事長さんがいるんだって。その人にお願いしたら二人ともぜひ!って言われたから」
「言われたから同意したのか?」
「うん。駄目だった?」
可愛く首をかしげてくる伊吹。くそっそんな可愛い身振り何処で覚えてきたんだ。俺は伊吹のおねだりとやらに大変弱い。
伊吹が欲しいと思ったお菓子は何でもあげたし、グランマに貰ったおもちゃも、選ぶのはいつも伊吹からだ。
俺の精神年齢は実年齢で言ったら20歳超えていた事もあったから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「別に駄目じゃないけど」
「じゃあ、決まりね! 明日から編入らしいから、父様が荷物まとめておきなさいって」
「明日!? なんでまた急に?」
「もう新学期始まっているから、早い方が良いて言われて。研究会はこの間終わったから、しばらくは何もないし、良いタイミングかなって思って」
いつからこんな強かな弟になったんだろう。ついこの間までは俺の後ろを真似して回る、可愛い弟だったのに。
「織、目がおじさんになってるよ」
遠い目をしていたのだろう、おじさんというワードに内心ドキっとする。普通に生きていたら、36歳。
アラウンド40とか、ちょっと洒落にならない。
「それで、何処の高校?」
言ってもしょうがない事は諦める主義だ。それに、ちょっと楽しいかもしれないと、淡い期待を抱く。
「全寮制水城学園って所。織知ってる?」