来訪


 気恥ずかしさに逸らした視線に、今度は薫が覗き込んでくる。


「見るなよ」


「さっき楽しそうにしてたのは誰だ?」


 自分がやるのと、やられるのでは恥ずかしさの度合いが全然違い、「見せろ」「見るな」のやりとりをしてじゃれ合いともとれるようなことをしていた時、突然部屋のチャイムが鳴った。





 こんな時間に誰だ、と薫と無言で顔を見合わせる。

 薫が玄関に向かい、玄関口を覗いた先の相手が俺宛だったのか、薫が神妙な顔をして、こちらを振り返った。


「誰?」


「斯波辰巳」




 予想外の相手に反応出来ず、顔が思いっきり強ばった。
 当然空気で薫が感じたのか、どうする?と言わんばかりの顔でこちらを伺っていた。


「………」


 どうする?と聞かれれば会った方が良いに決まっている。こんな時間に尋ねてくるぐらいだから、きっと何かあるのだ。



 でも、怖い。斯波と2人になるのが怖い。



「伊織?」



 でも、逃げたら此処で終わりだ。斯波という存在を腫れ物のように気にして学園を過ごしたとして、なんの意味があるのか。斯波にとっても、きっと良い影響を及ぼさない。


 伊吹の時と一緒のような気がした。


 ここで斯波に会わなかったら、この先話す機会は一生来ず、後戻りが出来ない所まで進んでいってしまう気がした。


 だから、此処で”なあなあ”にしては絶対に駄目だ。




 怖さに歯を食いしばって、玄関まで向かう。
 心配そうにする薫に、「大丈夫」と頷いて、扉を開けた。



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