まさか2

 寮まで来たところで入り口で止められた。だが、俺の状況を見て寮監が、今回は特別に、と許可を出してくれた。そうして、そのまま雅人に部屋まで運んで貰う。

 ゆっくりとベッドの上に下ろされれば、安心感からか身体の怠さが倍に感じられた。


「奥さんもいるのに、全てなんか、投げ捨てられる訳っないだろ」


 熱がまた上がってきたのか、息が苦しくなってくる。


「奥さん? なんの話だ?」

「指輪だよ、結婚指輪、してた」

「ああ、それか」

「なんだよ?」

「あれはただの縁談除けで、あいつは結婚してない」


 時が止まったような気がした。


「え…………」


 頭がぼーっとして上手く考えられない。


「ど……ういう、こと?」

「どういうってそのまんまの意味だ。婚約までいった女性はいたらしいが、全部破談になってる」


 追い打ちをかけるその言葉に、頭の中が真っ白になった。


「え…………、なんで?」

「お前質問ばっかだな」

「だって………」


 困惑と熱で頭はオーバーヒートしそうだった。ぐるぐると廻り、とりとめの無い思考が、雅人に口を摘まれたことによってストップする。


「いひゃい」

「不貞腐れるな」

「別に、不貞腐れてない」

「病院には行ったのか?」

「行ってない……」

「今医者呼ぶから待ってろ」

「うん……、ごめん」

「話はまた今度だ。今はもう寝ろ」


 そうやって話を上手くそらされた。
 本当に知りたいことの答えをくれない所は昔から変わっていない。飴と鞭を上手く使い分け、上手く誘導されてる気にすらなる。
 
 この人は先のことが予測出来ているんじゃないかとか、そんなことを昔本気で思っていたのを思い出した。


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