扉の向こう4



 俺の涙を見て全てを悟ったのか、


「くそっ」
 と雅人が舌打ちをした。


 着ていた上着を掛けられ、泣き顔を隆二から見えないよう咄嗟に庇ってくれる。


「もしかして、伊織くん?」


 焦った声の隆二を他所に、雅人にそのまま抱きあげられた。名前に反応してしまったからか、抱えられているのが俺だと分かったようだった。


「彼、高熱なんだ。すぐに休ませないと」

「お前のところには置いておけない。こいつは薫の友達だから、俺が連れて帰る」

「ちょっと待ってください、雅人さん」

「生徒が理事長の前で心が休まるはずがないだろう」

「それは……」

「隆二。一つ言っておく。もう一度寛に会えたとしても、今のお前には絶対に会わせない」

「え、それどういうことですか? 寛が生きてるってことですか?」


 その問いを無視して、どんどんと雅人は進んで行く。
 隆二の声は次第に離れていった。


「まさか……。だって確かに寛は僕の前で……」


 ぎゅっと雅人の抱きしめる力が強くなった。
 困惑する隆二を置き、雅人はエレベーターに乗り込んだ。


「雅人さん!?」


 閉まる直前、弾みでずれた上着の隙間から焦った隆二の顔と一瞬だけ目が合った。
 驚愕と困惑が入り交じった顔。



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