扉の向こう2



『三者面談で来たんで、ついでにお前に話したい事があってな』

『話たいこと? どうしたんですか、急に。アポなしだなんて、雅人さんが珍しい』

『今回は別に仕事で来た訳じゃないし、珍しくもないと思うが』

『仕事じゃないとなると、……寛の事ですか?』


 思わぬ所で自分の名前が出てきて驚いた。もっと2人の声が良く聞こえるように、音を立てないようにゆっくりと階段を上がり、扉の横の壁に寄りかかって耳をそばだてた。


『そうだ。……お前、もう月命日に来るのやめろ』

『僕が墓参りするのに、何か問題が発生しましたか?』

『問題はないが、お前にとっては問題だろう』


 隆二の返答はなく、無音の間が流れた。


『僕は別に……』

『いつまで過去の人間に縛られてるんだ、って言ってるんだ。ちゃんと周りも見ないと、大切なものをまた失うことになるぞ』

『もう失うものなど何もありません』


 雅人が大きくため息をつく。雅人の語気が少し荒立っているようにも聞こえた。


『……お前、もしももう一度、もう一度寛に会えたらどうする?』


 一瞬時が止まった。
 それは俺が聞きたくて、ずっと聞けなかった事だった。


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