扉の向こう
認めてしまえばとても単純で、それだけの話だった。
息を吐き出せば、乾いた笑いも一緒に漏れた。気持ちに蓋をしていたかのように、今までそんなはずはないと目を背けていた感情だった。
なんでそんなはずはないと思ったのだろう。
こんなに簡単なことだったのに。
隆二ともう一度会ってから俺は、隆二しか見ていなかったじゃないか。
俺の感情をいち早く見抜いたのは、伊吹だったのだろう。伊吹が怒った理由も、持ち出された約束の意味も、本当の意味で分かった気がした。
隆二への気持ちを自覚すれば、自覚する程、なんで部屋を飛び出してきたのか後悔と自責の念にかられた。
隆二が居なくなった扉を見つめていると、扉の向こうで隆二を呼ぶ声がした。
『高城』
低い男の声。
『雅人さん……』
驚いた隆二の声が聞こえてくる。
「まさと……もしかして兄貴か……?」
なんでここにいるのだろうか。俺が思った疑問は隆二も感じていたらしく、『なぜ此処へ?』と声が聞こえた。
『来ちゃ行けなかったか?』
『そんなことありません。ただこういった事は初めてだったので、驚きました』
2人の只ならぬ雰囲気に、俺は1人息を飲んだ。