熱2


「大丈夫? 食べれそうになかったら、無理しないでね」


 何か食べないとそう思うものの、隆二が作ってくれた美味しそうなおかゆを見ても、食欲が湧いてこなかった。

 そこまできて、ようやく自分に熱があることを実感した。

 熱の症状に慣れている分、症状によってどのくらいの熱かというのが予想出来るのだが、食欲が湧かないとなると38度を越えた熱である事が多かったのを思い出した。


 でも、あの頃の咳による息苦しさと迫り来る恐怖に比べれば、38度の熱も遥かに軽い。


「大丈夫です」


 せっかく隆二が作ってくれたんだから食べないと。その意識と気力だけで、おかゆを口に運んで行く。




 そうやってしばらく黙々とおかゆを食べた。美味しいおかゆだったが、胃が食べ物を欲していないのか、どんどんと胃に溜まっていく感じがした。




 食べきって美味しかったというと、隆二が嬉しそうに笑ったがどこか心配した様子だった。土鍋と言っても1人前用の小さな土鍋なのだが、食べきれるとは思っていなかったらしい。


「本当に無理してない? 残しても良かったんだよ?」
 実際何度も残しても良いと言っていた。


「大丈夫です。美味しかったので」


「……なら良いんだけど」


 煮え切らない返事をして、お盆を持って部屋を出て行った。



 隆二が居なくなると、張りつめていた糸が切れたかのように、しんどさがどっと襲いかかってくる。



 心配かけたくない。
 早く部屋に帰らないと。



 ふらふらする身体に鞭を打ち、部屋を出た。廊下の奥、扉を挟んだ向こうから水場の音がする。きっとさっき食べた土鍋を洗ってくれているのだろう。



 後ろ髪を引かれる思いで、そっと部屋を後にした。


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