苛立ち(side:Shiba)
Shiba.side...
以前小鳥に、「死んだと思った人間が会いにきたら嬉しいか?」と聞かれたことがあった。
死んだと思った人にもう一度会えるだけで嬉しい。それがたとえ姿が違くても。
でも、その答えを与える気はなかった。
受け入れられてしまえば、俺が得た秘密の価値は地に暴落するのだから。
前世のやつに受け入れられなければいい。
俺はそんな残酷なことを考えていた。
ボロボロに傷ついて、誰も信じられなくなればいいのに。
そしたら、俺のところに堕ちるしかなくなるだろう。
そう思っていたのに、いつの間にかその答えをどこかで手に入れていた事に途方もなく苛立ちを覚えた。
俺のものになるはずだったのに。
夏休みが終わったある日、「弟に全部話した。お前のおかげだ、ありがとう」そう清々しい顔で小鳥が報告してきた。
あの時から、俺の胸中の苛立ちともやつきは晴れる事がなかった。
あの時から、俺が得た秘密の価値は暴落した。
小鳥は今にも手から飛び立ちそうなのに、俺と会う事が義務かのように金曜になればメールが入る。
【今週から学会で海外に居るから行けない】
【今日は学校にいるから、夜行けそうだ】
都度入るメールに喜びを覚えつつも、俺が質問等を投げかけなければ続く事のないそのメールにまた苛立ち。
そんなもやもやを抱えて金曜を迎えて、小鳥を見れば全てを許してしまいそうになる自分にまた苛立った。
それなのに金曜になれば浮き足立つ自分を押さえられない。
俺の方が上の立場だったのはいつの話か。
それはまるで小鳥の手の上で踊らされているような感覚だった。