揃いの傷痕3

「何?」

「もうやめよう、こんなことは」


 自分の出した声が思った以上に自信のない声で、部屋に空虚に響いた。


「こんなこと? 織にとって、こんなことなの?」

「っ、そうじゃない」


 言葉尻をとられて、背筋が冷えた。そうじゃない、そういいつつも、きっと伊吹と自分の認識が違うということは分かっていた。


「何が違うの? あの時受け入れてくれたと思ってたけど、あれは嘘だったの?」

「嘘じゃない……でも」

「でも、なに?」

「……したくない」

「なんで?」

「怖い……。すればする程、兄弟じゃなくなる感じがして」


 伊吹の表情が変わった。訝しげだった表情が、戸惑いの表情に変わる。
 室内に重い沈黙が響き、お互い固い表情のまま見つめ合ったまま沈黙が続いた。




 長い沈黙が続いた後、伊吹が何かを思いついたかのように「そうか」とだけ言った。




「じゃあ、兄弟じゃなくなるまですれば良いのかな?」

「はっ? 何言ってるんだ?」


 何か恐ろしいことを聞いた気がして伊吹を見返せば、スッと伊吹の眼光が細められた。


「兄弟であっても1つになれないなら、兄弟じゃなくなれば1つになれるってことだよね」

「どういう理屈だ、そんな訳っ」


 ない、という言葉は再び伊吹の唇によって遮られた。
 荒々しい口づけだった。


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