ヒグラシの鳴く夏の終わり2


「織?」


 もう一度確かめるかのような伊吹の声のした方を振り向けば、無表情の伊吹がこっちを向いて立っていた。


「伊吹……」


 どうして、ここに?
 俺のことをつけてきたのだろうか?


 疑問は場の空気を前にして音になることが叶わなかった。


「忘れ物って、霊園に?」


 感情を殺したような伊吹の淡々とした声に思わずぞくっと寒気がする。言葉だけ聞けば問いかけているだけだが、笑っていない顔と声を聞けばそれが疑いを含んでいるのは明らかだった。


「……」


 ああ。

 そう頷こうと思ったが、今の伊吹を前にして嘘が通用するとは思えない。

 俺が黙っていると、伊吹は更に続けた。


「忘れ物って、理事長に会う約束のこと?」


 やはり、と思った。出口で隆二を見たのか、それとも俺と隆二が2人で話しているところを見たのか、どちらかは分からないが確実にどちらかは見ていたんだろう。


「……理事長にはたまたま会ったんだ」

「へえ、たまたま、ね」

「本当に約束をしていたわけじゃないんだ」

「じゃあ、織は何を忘れたの?」



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