ヒグラシの鳴く夏の終わり


「そろそろ時間だから」


 そう言って隆二は帰って行った。
 送ろうか、と言ってくれた隆二の申し出を断って、一人墓の前で立ち尽くしていた。

 夕暮れ時になっても、夏の日差しはまだまだ止むことを知らず、じっとりとシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。

 嫌に綺麗になった墓。
 線香はまだ火を灯しており煙が揺蕩い、花も綺麗に咲き誇ってる。


「隆二の、バカ。俺はここにいないのに」


 ここで隆二が俺に語りかけている内容も、時間も、想いも知るすべはない。まして自分が隆二に対して出来ることだってない。


「俺は間違っていたのかな……」


 幸せになってほしい。そう願った。
 隆二は結婚して、幸せになったのだろうか。何処かさみしげな空虚感を残す眼差しから、隆二の幸せな家庭生活というのが想像出来なかった。
 ヒグラシが空虚感を代弁するかのように遠くで鳴いていた。


 ため息をついて、頭を軽く振る。
 隆二が幸せになったかなっていないかなんて、隆二が決めることだから俺には分からないんだから。


 何かに言い訳をするように頭の中で呟いて、通りでタクシーを拾うべく霊園の出口に向かって歩いている途中だった。



「織?」


 居るはずもないその声が聞こえた時、急速に身体が冷えて行くのを感じた。


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