もうその手には……2
「なんで温泉?」
風呂で背中を流したいと言われ、何もしない事を条件に渋々了承したのまでは良かった。
ちなみに1時間後には部屋に帰ると宣言し、薫にもメールを送れば、薫も今部活終わった所らしく、晩ご飯が出来るのはそれぐらいだという返信があった。
そして俺は本格的な風呂に驚いていた。
風呂というか、露天風呂だ。
ガラス張りの小さなシャワー室の扉の向こうのバルコニーに5人位は入れそうな露天風呂があり、濁り加減といい、匂いといい、効能がかなりありそうな温泉が学園にあるなんて。
学費の大半はこういった施設費にあてられているのかと思うと複雑な気分になる。
「山奥ですからね、温泉源も結構豊富にあるみたいですし、大浴場も温泉ですよ?」
「大浴場? そんなのこの学園にあったのか?」
「寮にありますよ。伊織さん行った事なかったですか?」
「ああ」
道理で部屋のシャワー室が小さかったのかと納得する。ここだけやけに庶民的だなあ、と思ったが、大浴場があったのなら頷ける話しだ。
「じゃあ、伊織さんの初めては俺が貰えたんですね。伊織さんの裸を他のやつに見られるのは頂けないので、これからも大浴場は行っちゃ駄目ですよ」
「……」
いちいち言い回しが変態臭くて、引きそうになる。
俺は神を無視して、タオルをつけたまま温泉に入った。