もうその手には……


「嫌だ」

「まだ何も言ってません」

「その顔はろくでもない事を考えている顔だ」


 伊吹でも良く経験があるからなんとなく嫌な予感しかしない。
 ベッドから立ち上がった。もう時間も遅くなり、そろそろ部屋に帰らないと薫が心配する。


「待ってください」


 俺の腕を神が掴んだ。


「約束破ったお仕置きがいると思うんです」

「はあ?」


 そういった神の顔は真剣そのもので、こいつの変態具合がますます心配になる。


「駄目ですか?」


 眉尻を下げて、残念そうに聞いてくる神に絆されそうになって、いけない、と内心首を振る。


「駄目に決まってるだろ。時間も遅いし、今日はもう戻らないと」


 薫の美味しいご飯を食べ損ねるのは嫌だ。いつもよりは遅く帰ってはくると言っていたから、間に合うと思うが、それでもせっかく作ってくれた晩ご飯を、電子レンジでチンして食べるなんて事はしたくない。
 それに、バスケ部に入る事を伊吹にも報告しておきたかった。


「ごめ、」


 謝りかけたが、

「駄目ですか?」

 と尚も捨てられたワンコのように見つめてくる神の視線に。



 結局は絆される事になるのだが。


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