謙虚さと自信
「……なんで、あなたは」
ふぅ、と神が大きく息を吐いた。神の両手が肩に周り、背を向けていた身体がくるりと反転させられ、まっすぐ神に向き直させられた。
「だからなんで、あなたはそんなに自分を過小評価するんですか?」
「神?」
「確かに、謙虚さは日本人の美徳であると思いますが、卑下する事なんか何もない」
身長差から見下ろす形になってはいたが、必死に見つめてくる神の視線から、目を外せなかった。
「その歳で博士号とって、一途に研究に取り組んでいて、どこに過小評価する要素があるんですか? あなたは真っ直ぐだ」
「……そんなこと、ない」
「……何が伊織さんをそんなに苦しめているんですか? 斯波ですか? 弟さんですか? それとも、俺ですか?」
両肩を掴む神の手がじんわりと熱と湿り気を帯びてくる。
「そうじゃない」
原因は自分自身でしかない。斯波のことも、伊吹のことも、それに付随する連鎖反応の一つであって、原因を招いているのは他でもなく自分自身だ。
「時々、伊織さんは強いのか弱いのか分からない時がある」
「え?」
「どんなに研究に失敗しても、何度も何度も取り組む姿勢や、仮説が他の博士達に叩かれていたとしても、あなたは絶対にめげる事はないのに、自分の事になると年相応の脆さを感じる時がある」
「ほんとうに、良く見てるな」
「当たり前ですよ。愛してますから」
神はさらっと言い切った。
しかし顔は真剣そのもので、思わず顔に熱が集まるのを感じた。