案ずるより産むが易し



 本当によく見ている。
 薫も伊吹も神も、寛人の時は隆二も。
 俺の周りは、俺以上に俺を知っているんじゃないだろうか。きっと自分が一番自分のことをわかっていないのかもしれない。

 そんな周りに恵まれている自分は幸せ者なのかもしれない。そう考えると、じんわりと胸が暖かくなった。


「……そんなに分かりやすいか?」

「……」


 薫が無言になる。きっと相当分かりやすいんだろう。
 俺は天井を見上げて、ふーっと息を吐いた。


「伊吹はなんて言うかな」

「言ってないのか?」

「ああ」

「言ってみたらいいんじゃないか。お前のやりたい事を制限するような弟ではないだろう?」

「そうだな」


 自分で言っていて、なんとなく可笑しく思えてきた。
 傍から見たらきっと滑稽に違いない。何をするのにも、弟の許可が必要だと、そう言っていると他から見れば違いはないのだから。
 結局のところ、俺は伊吹を理由にしているだけだ。
 バスケに触れるのが怖い。生活がバスケ一色で染まってしまえば、また前世の繰り返しをしてしまうかもしれない。
 それが知らぬ間のうちに、バスケから一線を引いていた。

 モヤモヤと悩んでいるのは結局自分だけで、やってみれば意外とそうでもないことなのかもしれない。


 案ずるより産むが易し。


 ああ、きっとこれだ。


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