良き理解者
俺も薫も口がよく回る方じゃない。
でも、薫が必死に俺を説得してくれているというのは、真っ直ぐに伝わってきた。
言葉を紡ぐ時、一瞬考えるようなポーズがあるのは、薫なりに言葉を選んでくれているんだろう。
「俺はお前がバスケをやりたがっているように見えた。バスケをしている時の伊織は、俺が見た中で一番楽しそうだった。本当にバスケが好きなんだと思った。だから一度体験すれば、心は決まるんじゃないかと思った」
「……ごめん」
「謝らなくていい。研究以外に、入れない理由があるんだろう?」
「え?」
「弟か?」
「なっ……」
その言葉にドキっとした。
俺の事を考えてくれているのは分かっていたし、同室だからという事を差し引いても、俺を良く観察しているんだなという気はしていた。
だが、そこを突かれるとは思っていなかった。
「……なんで、そう思ったんだ?」
恐る恐る聞く。
「伊織は自分のことじゃそんなに悩まないだろう? 悩むとしたら、いつも弟関連だ」
座っている時感じなかった身長差から、少し見上げる形になる。
一見無表情に見えるが、どこか心配そうなその表情を浮かべ、でも何処か優しげに俺を見ていた。