監督2

 取り返しのつかない事をしたのは百も承知だった。

 バスケをしたい。

 頭ではいけない事だと分かっていたのに、その気持ちを抑える事が出来なかったから。
 煮え切らない表情をしていたせいか、小黒が申し訳なさそうに笑った。


「雰囲気、合わなかったか?」

「いや、そんな事ないです」

「あいつらの事だ。試合試合、ってうるさかっただろ?」


 そう笑いながら、小黒が部室の鍵を開ける。


「そんな事は、」

「あんまり責めないでやってくれ。あいつらは、純粋にお前とバスケがしたかっただけなんだ」


 その言葉に胸が熱くなった。
 俺だって、あいつらとバスケがしてみたかった。レギュラーと言われる強い相手なら尚更だ。


 これがもし前世の自分だったら。


 そう考えて、今の自分を否定する言葉に、ぞくっと背中が泡立った。

 前世の自分だったら、なんだと言うんだ。
 高校生活の半分は靭帯断裂と病気でバスケさえ出来なかったのに。

 それは目の前にいる小黒なら知っている。


「これが入部届だ。保護者印鑑の欄があるが、任意で良い」


 手渡された一枚の紙。
 俺が前世でこの紙を出したのは2回。中学からの流れで1回目は迷いもしなかった。2回目は、人生で残された時間はバスケに費やしたい、そう思って提出した。


 その入部届がもう一度自分の手にあった。


←Top[0]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -