監督
「お前は……、」
小黒の訝しんだ目が、這うように俺を見ていた。
「部外者にも関わらず、コート内に立ち入って申し訳ありません。本日見学に伺わせて頂きました、小鳥遊です」
俺は慌てて頭を下げる。
今の立場は、先生と生徒。小黒にとって、俺は見知らぬ生徒だ。
「ああ、お前か。水無瀬が言ってた」
「はい」
「こいつは悪くないんだって、おぐっち! 俺らが勝手に誘っただけ!」
「大丈夫。んな事は分かってるよ。お前ら、もう休憩すんでんだったら、ピックアップやっとけ!」
「「はい!!」」
レギュラー陣が一斉に動きだし、練習が再開された。
俺は、「ついてこい」と言う小黒に従って体育館を出る。
「悪いな、あいつらにつきあわせて」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ休憩時間を邪魔してしまって、すみませんでした」
「あいつら強いやつ見つけるとすぐこれだからな。お前だろ、文化祭の3ポインターは」
「文化祭の3ポインター?」
「文化祭でレギュラー陣を抜いただろ? あいつらが騒いでたよ。噂の編入生は、バスケが強いって」
「……」
鈍器で頭を殴られたかのように、急激に頭が冷えた。
褒められているんだろうが、全く嬉しくない噂だった。