文化祭当日2
最初はぱらぱらと数える程しかいなかった客も、昼近くになれば席はほぼ満席になっていた。
頭に叩き込んだウエイターのマニュアル通りに、接客を進めていく。
「アメリカンコーヒーとシナモンロールになります」
言った後にニコリと微笑む。
これもマニュアルにちゃんと書いてある。
可愛い系男子の2人組はお気に召してくれたらしく、キャッキャッと楽しそうにしていた。
「伊織ちゃん相変わらず罪作りやのう」
バックに入ると日下が後ろからのしかかってくる。
「伊織にちょっかい出す暇があったらさっさと運べ」
薫が持っていたお盆を日下の頭の上に載せた。薫の格好はいつもの制服に戻っていた。
「もう行くのか?」
「ああ、すまん。少し早くて悪いが部活の方のローテーションの時間だから行く。体育館で出し物してるから、良かったら後で来てくれ」
「分かった」
「わしも一緒に行ったるぜよ」
「分かったからそれ早く持っていってこい」
お盆に載った珈琲が白い湯気をたてる。日下がのんびりしているから、冷めてしまいそうで心配になる。
「承知!」
学園祭の雰囲気にマッチした日下がなんだか面白くて、思わず笑ってしまう。
「楽しめているようで良かった」
「楽しいよ。すごく」
「そうか」
「ありがとう、薫」
薫は答える代わりに、俺の頭を数回撫で、教室を後にした。