07


翌日早朝――。
例の『果たし状』を送り付けて来た男がやって来た。

「おれが治部護少だ。仙崎真尋、お前の命を頂戴しに参上した」
「……わかった。とりあえず道場を壊されると後々修理するのが大変だから別の場所でお相手するわ。良いわね?」
「ククッ……、あァ構わんさ。死に場所ぐらいは自由に選ばせてやる」

マヒロに不敵な笑みを浮かべる治部護少は決してマヒロから視線を外すことなくじっと見つめていた。マヒロが先を歩いて裏手の山の麓に広がる広場へと向かうその後をついて行く治部護少は舌なめずりをしながら「クククッ」と喉を鳴らした。

「……噂に違わぬ。……実に美味そうな女だ」

治部護少が小さな声でそう呟いたのを更に後方を歩いていたマルコは聞き逃さなかった。

―― 何とも不快で気に食わねェ男だよい。

兎角、治部護少が漏らした言葉の意味だけを捉えれば、女に飢えた海賊共が女を前にして下卑た笑みを浮かべて吐く様な台詞と同じだ。だが治部護少が吐いた台詞は何となく意味合いが違うのはとマルコは思った。

治部護少から発せられる雰囲気は人とは思えない異様なものを感じた為だ。

治部護少の髪はボサボサで顎鬚を蓄えてむさ苦しい様相に、細身のように見えるがそこそこの筋肉が付いた身体は然程身長は高く無くマヒロより少し高いぐらいであり、マルコからすれば低くて頭の天辻が見てとれるほどだ。見た感じとしては三、四十代ぐらいかと思われるのだが、治部護少の眼光は普通のそれでは無かった。

『狂気』

人の目と思えない異様な眼光だった。それだけでも並の男では無いことが最初に治部護少を見た時にマルコは瞬時にそう察した。

―― 嫌な雰囲気だ。ただの男じゃねェ。こいつは何者だよい? 妙な胸騒ぎがして仕方が無ェ。

マルコは治部護少の背中を見つめ、そして先を歩くマヒロへと向けるとグッと拳を強く握る。
力試しの後、マヒロの頑固に負けたマルコは今回の戦いの条件を出していた。

「おれが危ないと判断したら問答無用で助けてやるよい」
「絶対そんなことにはなりませんから!」

マルコの条件にムッとしてふて腐れたマヒロはぷいっと顔を背けた。そしてあれから今朝方まで顔を合わせる度にマヒロはムスっとした表情を浮かべて「手を出さないで」と度々マルコに言って来たが、マルコとしても世話になっている身でもある為に『条件は絶対』としてそれ以上は絶対に引けなかった。
実際にこうして相手となる治部護少を見ればその思いは尚更だった。

道場から離れて森を抜けた先、裏手の山の麓に広がる広場へと着くと、マヒロは足を止めて治部護少へと振り向いた。

「ここよ」

一言だけそう言うとマヒロは治部護少から距離を取り、治部護少は大きくを息を吐いてその場に佇んだ。マルコは二人から少し離れて岩場に背を預けて両腕を組んで勝負の行方を見守ることにした。

「……あいつは戦わないのか?」
「えェ、彼は観戦するだけよ。戦うのは私。それが希望でしょ?」
「ククッ……、大そうな自信家だ。お前の婆さんにそっくりだ」
「! あなた……、祖母を、幻海を知っているの?」

マヒロが少し驚く様子をじっと見つめる治部護少は不敵な笑みを浮かべた。

「あァ知ってる。何度か命を狙ったが、なかなか手強い婆さんだった」
「……」
「だがまァ流石に老いには勝てなかったようだがな。クククッ、死んでしまってガッカリした。だが真尋、お前は婆さん以上に魅力的で安心した」
「っ、……凄く不愉快だわ。悪いけど私は一切手加減しないから覚悟することね」
「覚悟か。それが必要なのはお前だ真尋。死ぬ覚悟を、おれに喰われる覚悟をな!!」

治部護少は声高らかにそう言うと先に攻撃を仕掛けた。地を蹴ってマヒロとの間合いを詰めると即座に右ストレートを放った。だがマヒロは身を引いて片手で払うようにその攻撃を往なし、隙ができた治部護少の胴体に目掛けて蹴りを放った。治部護少はそれを躱す素振りも見せずに敢えてマヒロの攻撃を受けた。

「なっ!?」
「ッ……、クク……、軽いな」

治部護少はあざ笑うような皮肉な笑みを浮かべるとマヒロの足を掴んで力尽くでマヒロを岩に目掛けて放り投げた。マヒロは直ぐに身体を反転してひらりと体制を整え、岩壁に足で着地すると同時にその壁を蹴って治部護少へ反撃を仕掛けた。

ぼぅっ!

青い光に包まれた両拳を続けざまに連撃を放つ。だが治部護少はその攻撃を寸分の差で躱し、地を蹴って後方へと飛び退いてマヒロから距離を取った。

「ふむ……、そこそこ出来るか。伊達に霊光波動拳を継承するだけのことはあると見える」
「……どうも」
「クク……、あァ……、益々欲しい……、真尋が欲しい」

治部護少は目を細めて舌なめずりをして欲望のままに言葉を漏らすとマヒロは眉をピクリと動かして溜息を吐いた。

「はァ……、あんたみたいな男は本当に勘弁して欲しいわ」
「そう言うな。この男は、町で見掛けたお前に一目惚れして……好意…ッ、ぎぎっ、抱いた…っ、男だった…のだぞ? ぐぎ……お、レが、あ、会わせて、やった…」
「!」

治部護少の言葉が歯切れ悪くなると同時に声音が少しずつ変わり、治部護少から発される雰囲気までもが少しずつ変わり始めた。

「あ"が……ッ、が…ぎ…ぎぎぎ…」
「そう……。憑依変異型ってことね」

治部護少の目が赤く充血し始めるとそれが黒へと変わっていく。身体中のありとあらゆる血管が生物のように蠢きながら浮き始めると、ぼさぼさの髪や髭が塊となってバサリと抜け落ちていった。そして、額から角のようなものが二本ほど生えると鋭い犬歯が顔を出して伸びた。

ゴキゴキゴキッ!

背中が異様に発達して隆起を始めると骨が動く音が大きく響いた。肩甲骨が隆起して腕が伸び、手や足が人の手から異様な形へと変貌を遂げて大きく形を変え、爪が鍵爪のように鋭利な姿に変貌した。

「マヒロ!」

治部護少の変異に驚いたマルコはマヒロの元へ急いで駆け寄り警戒態勢を取った。

―― あいつの目に宿った異様な狂気はこういうことだったってェことかよい。

「マヒロ、あれは一体どういうことだい?」
「異形の者が人間の中に紛れ込む為の手段ではよくあることなんです」
「……異形の者?」
「一般的に『妖怪』と呼ばれたり『虚(ホロウ)』と呼ばれたりする者達のことを言います」
「……それで、何故人間の姿になってんだよい?」
「彼らは『人肉と魂を喰らう者』であり人間が好物なんです。人を食す為には人の姿で人間社会に溶け込んで獲物を探す方が効率的だから。たまに欲張って大量に喰らいたい奴が事故に見せかけて大勢を殺すこともあります」
「!」

マルコは目を丸くして驚いて絶句した。平和な世界だと思っていたこの世界の暗部は危険そのもので、常に死と隣り合わせに晒されている世界なのだと知った。

「それは……、それは誰でも知っていることなのかよい?」
「いえ、誰も知りません。私のような特殊な力を持った人だけにしか知り得ません」
「どういうことだ?」
「彼らの纏う妖気で並の人間には見えないんです。見えないですし、触れたりもできません」
「ようき? ……マヒロの霊気とは違うのかよい?」
「私達人間の持つ霊気が彼らで言う所の妖気です。霊気は妖気に有効ですが、彼らは強い霊気を持つ者を喰らえば喰らう程により強い妖気を纏うことができます。だから私のような人間を見つけては、こうして襲って…来る…わけ……で――!?」
「成程、そういうことかよい」

マルコが両腕を組みながら片手を顎に触れて納得したように頷く横で、マヒロは視線を治部護少から外してゆっくりとマルコへと顔を向けた。

「ま、ままま…、マルコ…さん…?」
「ん? どうしたよいマヒロ?」

何故かマヒロが目を見開いて口をパクパクして驚いていることにマルコは眉を顰めて軽く首を捻った。

―― な、何だよい?

がばっ!!

「よい!?」
「うう嘘でしょ!? マルコさん、ま、まさか、まさか見えてるんですか!?」
「なっ、何がだよい!? お、落ち着けよいマヒロ!」

マヒロが突然マルコの胸倉を掴んで前後に激しく揺さぶり、治部護少へと指さしながら戸惑いの声を上げた。マルコも驚いて自分の胸倉を掴むマヒロの腕を咄嗟に掴みながらマヒロが指さす先へと視線を向けた。

「あれ! 見えてるの!? 見えてるんですか!? ねェ!!」
「……」

―― あれ……? あァ、はっきり見えてるよい。……見えてちゃ何かまずいのかよい?

「と、とりあえず、お、落ち着けよい! 見えてる! 見えてるからよい! マヒロ、頼むから落ち着けよい!!」

マルコは治部護少に指を指し示して何度も確認の言葉を投げかけるマヒロを宥めながらそう答えると、マヒロは唖然としながらも漸く手を離した。マルコはホッと一息吐いて異様な姿に変形する治部護少に視線を向けた。

「マヒロ、異形の者が『見える』ってなァ異常なことかよい?」
「っ、え、えっと……、その、霊的な力が強い人だけにしか見えません。あの、マルコさんは死んだ人の姿を明確にはっきりと見えていたりしてましたか?」

―― あー……、いや、全然。

「……無いよい」
「え? じゃ、じゃあどうして……見えるの?」
「こっちが聞きてェよい」

マヒロの疑問にマルコは額に手を当てて溜息を吐きながらガクリと項垂れた。だが少ししてマヒロはハッと何か思い当たる節がわかったのか「……あ!」と声を漏らし、マルコはマヒロへと顔を向けた。

「マヒロ?」
「私の……せいかもしれない……」
「……は?」

マヒロは口元を手で覆いながら俄かに信じられないといった様相を浮かべ、困惑気味にそう言葉を漏らした。マルコは意味がわからずにじっとマヒロを見つめているとマヒロは視線を泳がせながら眉間に皺を寄せて軽く唸った。

「で、でも! そ、そんなこと!! 本当にあるわけ…ッ、いや、で、でも、筋は通るわね。……っ、あァ……、だとしたら何てことしちゃったんだろ……」

独り言ちるマヒロをじっと見つめるマルコにマヒロは漸く目を向けた。何やら自責の念を感じているような面持ちを浮かべているマヒロにマルコは眉を顰めた。

「ッ、き、昨日……、力試ししましたよね?」
「あ、あァ、したねい」
「私、覇気のお礼で霊気を纏って攻撃しましたよね?」
「……したねい」
「……触れましたよね?」
「いや、全部躱したろい?」
「マルコさんが反撃した時の青い炎……。あれって、覇気の何かだと思ったんですけど――」
「あ、」

マヒロは両手を組んで親指を交互に動かしてモジモジとしながら言うと、マルコは思い当たる節に当たったのかハッとして声を思わず漏らした。
確かにあの時、マルコが青い炎を噴射させて衝撃波を引き起こしてマヒロに反撃した。マヒロはあの青い炎が覇気の一種だと思っているようだが、あれは不死鳥の炎でありマルコ自身とも言える炎に他ならない。

「っ、あ、あれで? あれで触れたことになるのかよい? いや、けどよい、触れたのが原因ってェのがよくわからねェんだが?」
「強い霊気を持った人の影響を受けることで、それまで全く見えなかった人が見えるようになり、強い霊気を纏うようになったりする現象がある――っていう話を……、その、祖母から冗談混じりの話で聞かされたことがありました。ま、まさか、本当にそんなことがあり得るなんて思っていなかったから! ご、ごめんなさい!!」

マヒロはギュッと目を瞑ってマルコに対して頭を下げて謝罪した。マルコはポリポリと頬を掻きながら視線をマヒロから外して小さな溜息を吐いた。

―― 成程ねい……。

「あー、いや、マヒロ、謝るなよい。おれは別に良いからよい」
「でも!!」
「つまり、それはおれも戦えるってことだろい?」
「え?」
「見えるってェことは触れることができる。ってェことは、戦えるってことだろい?」
「そ、それは……」

マルコの言葉にマヒロはガバリと頭を上げて困惑な表情を見せるとマルコはクツリと笑った。

「なら、治部護少はおれが戦うよい」
「え!? 待って! マルコさん!!」
「どれだけ戦えるのか試してみてェしない。マヒロ、おれが危なくなったら助けてくれよい?」
「えェ!? その約束、私とマルコさんの立場が逆転してますよ!!」

マヒロは咄嗟にマルコの腕を掴んだ。

「マヒロ」
「ッ!!」

必死になって戦うことを反対するマヒロの頭に、マルコがぽんっと手を置いてクシャリと撫でるとマヒロは目を丸くして押し黙った。
これはマルコが気付いたことだが、マヒロは頭を撫でられることに慣れていないのか、マルコがこうしてマヒロの頭を撫でると、マヒロは顔を赤くして押し黙る傾向があるのだ。
マルコが少ししてやったりといった顔で笑みを浮かべるとマヒロは顔を赤くしたまま頬を膨らましてマルコからふいっと顔を背けた。

「も、もう!!」
「おれに任せろよいマヒロ」
「勝手にして!」
「あァ、勝手にするよい」
「ッ……」

マルコがマヒロから離れて治部護少の前に立って対峙した。変形を終えた治部護少は黒い瞳をマルコに向けて怪訝な表情を浮かべた。

「ぎぎき……、何だお前?」
「ここから先はおれが相手になるよい」
「ぐぎぎ……、人間、邪魔するな。お前、おれに、勝つ気か?」
「マヒロの助けができるかどうか色々と試してみたくてねい。で、変形はもう終わったのかよい?」

最早人間の姿など微塵も無い。人間からかけ離れた姿に変貌した治部護少は見るからに化物だ。肌の色は少し変色して暗い黄土色に変わり、変形の際に破れた思われる人の皮膚片がこびり付いて生々しい。

「ぎぎ……、人間の身体は窮屈だ。先程の戦いを見て勝てると算段したか、人間」
「いや、そうでもねェよい」
「おれの名は怪童児。強い霊気を纏う人肉を喰らう者。貴様のような奴に用は無い。邪魔するなら即刻殺すぞ」
「そう簡単に殺されるわけにはいかねェよい」
「真尋、真尋を、真尋を寄こせェェェ!!」
「おれを殺してからにしろい」
「あ”あ”あ”あ”っ! 邪魔するなァ”ァ”ァ”!!」

怒声を上げ始めた治部護少――怪童児が身体を大きくうねらせると地面を蹴ってマルコに向けて突進した。変形して凶器と化した鍵爪を持った手を大きく振り上げるとマルコの腹部へと突き刺すように攻撃した。

ドシュッ!!

すると怪童児の拳はマルコの腹部を直撃して背中まで貫通して突き抜けた。

「マルコさん!?」
「ククッ……、クハハハハッ!! 単なる無駄死にだ!!」
「……そうでもねェよい」
「えっ!?」
「なっ、何だと!?」

マルコは怪童児の腕が腹部に突き刺さったままであろうと構わずに覇気を纏った足で怪童児の顎に目掛けて蹴り上げようとした。だが怪童児は咄嗟に腕を引き抜いてマルコから距離を取った。その際にマルコの腹部からボタボタと夥しい血が溢れるように出血して地面を赤く染めた。
怪童児は驚きの表情を崩さずにマルコの姿をじっと見つめて固まっていた。その様子から怪童児が咄嗟に身を引いて距離を取ったのは、マルコの覇気を纏った足蹴りを躱す為の行動では無かったとマルコは分析した。

「き、効いていないだと!?」
「いや、結構効くよい」

痛みが無いわけでは無い。だが不思議と苦痛に感じない。それに、マルコが想像していたよりも怪童児の動きが遅く感じた。身体の全ての感覚が妙に研ぎ澄まされているように感じる。心もやけに穏やかでマルコは非常に落ち着いていた。

―― 強い霊気を持った人の影響か……、こいつは凄ェよい。

「ッ、や、やだ! マルコさん!!」
「……マヒロ?」

マルコが自身の変わり様に感嘆しているとマヒロが慌てて駆け付けてマルコの腹部に手を当てた。そして、マヒロの顔はどんどん青褪めて絶望の色に染まっていった。

「やだ……血が! 止まって、……や、嫌!!」
「マヒロ、心配するない」
「ッ、こんな、馬鹿! 心配するなだなんて無理に決まってるじゃない!」

今直ぐにでも泣きそうなマヒロにマルコは苦笑を浮かべた。

「マヒロ、大丈夫。おれは死なねェよい」

マルコは穴の開いた腹部に青い炎を纏い始めるとマヒロは驚いて慌てて手を引っ込めた。

「嘘……、傷が…消えて……どういうこと?」
「傷が消えてるんじゃねェんだ」
「え?」
「再生してんだよい」

マルコはマヒロの手を取ると未だに青い炎を纏う腹部に触れさせた。怪童児に貫かれて空いた穴は既に閉じて傷が消えている。マヒロは驚くと共に自分の手に触れる青い炎に熱が無いことにも気付いて更に目を丸くしてマルコへと視線を向けた。

「どういうこと? それにこの炎は……熱く無い。何故?」
「マヒロ、どうせ泣くならよい、この戦いに勝った後に喜びで泣いて欲しいもんだ」
「!」

マヒロの目からポロリと頬に伝い落ちた涙をマルコが親指で拭い取るとその手でぽんとマヒロの頭を撫でた。そしてクツリと笑ったマルコはそのまま怪童児へと向かい、片眉を口角を上げた不敵な笑みを浮かべて笑った。

「悪ぃ、待たせちまった。続きを始めるよい」
「貴様……一体何者だ!?」
「人間だよい」
「なっ!?」

―― 一応な。

悪魔の実の能力は有効。その上マヒロの霊気の影響下で身体の端々まで感覚が研ぎ澄まされている。霊気を纏うことはできないが、妖気に対して覇気が有効なのかどうかを改めて確認する必要がある。先程は蹴り損なったが怪童児は覇気に気付いていないようだから警戒もされてない。

マルコは戸惑いを見せる怪童児をじっと見つめて冷静に分析を続けた。

―― さて、試してみるか。こっからは本気で行くよい。

軽く息を吐いたマルコは右側を前に半身の態勢に立って構えた。すると怪童児は目を尖らせて身体を震わせるようにして警戒感を露わにして身構えた。

そんな二人から少し離れた位置に立つマヒロは、先程青い炎に触れた手を反対の手でギュッと握り締めるとマルコの背中をじっと見つめた。

―― マルコさん……、あなたは……。

身体が震えている。
死んでしまうのではないかと恐怖した。

いつの間にかマルコが無くてはならない人になっていることにマヒロはこの時に初めて気付いた。
胸がドキドキと激しく脈打ち自ずと手が胸元に向かい衣服をギュッと握り締めた。

―― 死なないで。

マヒロは心底から強くそう願いマルコの戦いを見守ることにした。

怪童児

〆栞
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