19


パーティー会場では盛り上がりがピークを迎えようとしていた。
多くの貴族達がパーティー会場の端に居たマヒロとレイラの存在に気付き、ダンスの誘いを申し込むべく人だかりが出来ていた。

「このような美しい女性が二人もいたというのに気付かなかったとは!!」

貴族男子の一人が女を物色していた最中、会場の端にマヒロとレイラがひっそりと椅子に座っている姿を見つけたのが始まりだ。その男が「な、なんて可憐で美しい……」と言葉を零し、その言葉を聞いた周りにいた貴族男子達が挙って視線を向けて目を丸くした。

「「「!!」」」

こうなると誰がいの一番に彼女達とお近付きになれるのかと競争が始まる。既にパートナーとして側にいた女性に断りを入れ、マヒロ達の元へ駆け寄る男達も幾許かいた程で、貴族女子達からは反感を買っていた。
しかし、マヒロと共にいたレイラの姿に気付いた一部の貴族女子達は「流石に領主様の娘さんですものね」と納得する者もいた――が、それでもやはり面白くは無いだろう。
そうして彼女達が貴族男子達に愛想をつかした時、貴族女子の一人がふと別方向へ視線を向けて目にしたのは、貴族男子達とは一線を画してワイルドで少々野性味のある男が三人――そう、白ひげ海賊団の隊長達だ。

「あ、あそこ! 素敵な殿方がいらっしゃるわ!」
「まァ本当だわ! 全然気付きませんでした!」

会場の外れで楽しんでいた一行の元に貴族女子達が群がりダンスのお誘いをする。
貴族女子達に引っ張りだこになるエースとハルタだが、最も女性が群がったのはイゾウだった。

「な、なんて…なんて美しいの?」
「このような艶やかな殿方とお会いするのは初めてですわ……」

頬を赤らめ、恍惚とした表情を浮かべてイゾウを見つめる貴族女子達を目の前にして、イゾウは苦笑を浮かべた。しかし、内心では本気で舌打ちと暴言を吐く黒いイゾウがいた。

―― おれはあんた達みてェな貴族のお嬢さんタイプは嫌いなんでねェ、出来ることならお近づきには一切なりたくねェ女ばかりだ!

ハルタは人当りが良く愛想も良い。そして何より童顔タイプで若く愛らしい部分も受けてか、貴族女子達はそんなハルタに黄色い声を上げた。

「きゃー! 凄く母性が擽られますわ! 私と一緒に踊りませんか!?」
「はァ…なんて素敵なハニースマイルなの? 私、貴方様の虜になりましたわ」

目にハートを浮かべながらしみじみと語る貴族女子達を目の前にして、ハルタは満面の笑顔を浮かべた。しかし、内心では猛毒を吐きまくる真っ黒なハルタがいた。

―― 貴族女子ってケバイ化粧ばっかじゃん! 何さあの睫毛? あんなに盛る必要あんの? どういう趣味してんのかな、本当、人間性を疑っちゃうよね!

エースは明らかに迷惑顔で「本当に勘弁してくれ!」と嫌がっている。だがエースは顔立ちも良く身長も体格も均整が取れた少年と青年の両方を持ち合わせた若く活発な男なだけに、貴族男子には決していないタイプだ。
草食系とも言える貴族男子に飽き飽きしていた貴族女子達にとっては格好の獲物。

「いやァ! 本当に可愛いしカッコいいし素敵! こんな人とお付き合いしてみたかったの!」
「本当に男らしくて、それでいて爽やかで、……あァ、このような殿方が世の中にいまして?」

目をキラキラと輝かせ、今にもエースを引っ張り込んで獰猛に喰らい付きそうな貴族女子達を目の前にして、エースは眉間に皺を寄せて完全に引きながら内心で悲鳴を上げていた。

―― マジで勘弁してくれって! おれはこういう貴族の女とかマジで無理だ! 助けてくれオヤジィィッ!!

三人の隊長達に群がる貴族女子達を、二コラ、スージー、アビーは冷たい視線を送る――どころで無く、彼女達もまた貴族女子に飽きた貴族男子達が彼女達を見つけて詰め掛けていた。
しかし三人は隊長達と違い満更でも無い様子。
二コラ、スージー、アビーは好みの貴族男子に応じ、会場の中央にあるダンスホールへと一緒に向かう。

「「「楽しんでくるわね〜」」」
「「「マジか!?」」」

何故なら白ひげ海賊団には決していないであろう草食系男子に興味を引かれたのだから仕方が無いことだ。
イゾウ、ハルタ、エースのパートナーとなる相手がいなくなると同時に貴族女子達の猛烈アタックは激しくなっていくのであった。

一方その頃――。
会場の外、壁際に倒れていたサッチは未だに痛む後頭部を手で摩りながらムクリと起き上がり、地面に落ちていたハット帽を拾い上げて埃をパンパンと払ってから被った。
ゾイルの自室から会場までの間にいたサッチは離れた場所で貴族女子達に集られるイゾウ達を見つめた。
最初こそ「てめぇらばっかり!」と嫉妬したものの、よく見ればイゾウ、ハルタ、エースのそれぞれの表情は優れない。
彼らの心情を慮ると途端に「ざまァねェな!」と笑いが込み上げて笑うのだった。

「サッチ?」
「……おう、鬼マルコ」

背後から馴染みの男の気配と声にサッチは笑うのを止めるとムスッとした表情で振り向いた。そんなサッチにマルコは片眉を上げると苦笑を零した。

「やり過ぎた。悪かったよい」
「本気で反省してんのか怪しいったらねェわ」
「まァ、いつものことだろい」
「おう、おれっちが泣き寝入りする系……って、納得できるかってんだ」

サッチは腕を組み、ふんっと息巻いてマルコから顔を背ける。やれやれと小さくかぶりを振ったマルコはサッチを置いて会場へと向かおうとした。

「あー、今は会場に行かねェ方が身の為だと思うぜ?」

サッチの言葉にピタリと足を止めたマルコはサッチへと振り向いた。

「何でだよい?」

サッチはゆっくりと立ち上がると指を差した。

「あれ」
「ん?」

その方角に目を向けたマルコは目を丸くした。

「……ありゃあ一体何が起きてんだ?」
「貴族の奴らがお互いに飽きたんじゃねェの? だから貴族にゃいねェタイプのイゾウ達を見つけて集ってんだろうぜ」
「……お前ェはあそこに行かねェのかよい?」
「おう、おれっちは……ここでずっと気絶してたってんだよ!」
「あァ!」
「『あァ!』じゃねェ! 誰のせいだ誰の!!」

納得顔を浮かべて頷くマルコにサッチは怒った。だが直ぐにサッチはクツリと喉を鳴らして笑うとマルコは視線をサッチに向けた。

「まァおれっちも貴族女子はちょっとあれだ」
「あ?」
「良くてお嬢様タイプのレイラちゃんまでだな。あんなキラキラ着飾って化粧をばっちりめかし込んだ貴族女子はちょっと遠慮してェかもな」
「……」

ニコッと笑ってそう言ったサッチにマルコは無言だ。

「んー……何その表情?」

どうしたのかとサッチがマルコに視線を向けると、マルコは驚きに満ちた目で「本気かよ?」と言いたげな表情を浮かべていた。
サッチは多少眉間に皺を寄せ、頬を引き攣らせた笑みを浮かべるが、マルコは徐に手で口元を覆うと少しだけかぶりを振って後退った。
女好きの代名詞と言えるサッチの口からそんな言葉が出るなんて――と、余程ショックだったのだろうか、サッチは「おい」と思わず怒気を込めた声でマルコに声を掛けるのだった。

「い、いや、サッチに女を選別する”能力が”あるなんて知らなかったからよい。つい、驚いちまったんだよい」
「はァ!? おれだって良し悪しぐれェするってんだよ! っつぅか何その能力扱い!?」
「……女だったら誰でも良いのかとばかり思ってたからよい……」
「え? 何でそんな哀れ気な目でおれを見るの?」

この悪友は自分を一体何だと思って見ていたのだろうかとサッチは思った。

マルコとサッチの会話に一旦区切りがついた時、何やら視線を感じた二人はハッとした。そしてゆっくりと視線を向ける。するとイゾウ達に集っていた貴族女子達の中で、外に弾かれ押し出された女子達がマルコとサッチの存在に気付き、じっと見つめていたのだ。

「……み、見つけたわ。私の生涯のフィアンセとなる方を……」
「あァ! あの帽子を被った人! 私の好みだわ!!」
「「!!」」

マルコとサッチはお互いに腕や衣服を掴んでお互いを餌に一人だけその場から逃亡を図ろうとしたが、お互いが同じ考えで行動したことに顔を見合わせ……苦笑を浮かべた。

「考えてることは同じかよい」
「そうみたいだな」
「マヒロのところに避難した方が無難だよい」
「だな」

マルコとサッチは彼女達から逃げるようにして会場へと向かったのだが、途端に足を止めた。

「なっ!?」
「おーいおい、凄ェモテようだな」

マヒロとレイラの周りに出来上がった貴族男子達の群れは大きく膨れ上がり、中心までどれだけの人を掻き分けなければいけないのかと唖然とした。そしてそんな二人に貴族女子達が追い付くと、腕や手を絡み取られて引っ張り合いが起きた。

「私と一緒に踊りませんこと?」
「いいえ、私と踊りましょ?」
「何なら私と結婚前提にお付き合いを致しませんか?」

ダンスの誘いの中でどさくさに紛れて『結婚前提』と口にする貴族女子がいた。その言葉を耳にしたサッチは思わずギョッとして、内心ではガッツポーズを掲げて実に大きな声で絶叫するサッチがいた。

―― うおおお! モテ期到来!!

先程の『貴族女子はちょっと遠慮してェかもな』発言は何だったのだろうか?
サッチは予想だにしない数の女性に集られた為か、一転してどこか締まりの無い笑みを零して嬉しそうな表情を浮かべていた。それを見たマルコは眉間に皺を寄せた。

―― 結局やっぱり女なら何でも良いんだろうが!!

内心で盛大にツッコんだのだった。
その時――。
真正面から人目も憚らずにガバッと抱き付いて来る女が居た。

「よい!?」
「あァ…、凄く安心できますわ」

女はうっとりとした表情を浮かべて感想を述べる。すると側にいた他の女達が挙って黄色い声を上げた。

「ああ羨ましい! 次は私に抱き付かせてくださいな!」
「はァ! 私も!」
「私も!!」

目をキラキラと輝かせながら順番を競い合うように声を上げる中、マルコに最初に抱き付いた貴族女子は言う。

「はしたない女とお思いでしょうけど、貴方様があまりにも素敵な殿方でしたから、我慢が出来ませんでしたの」

女は頬を赤らめながらどこか扇情的な表情を浮かべてマルコを見上げていた。
貴族女子達のパワーを前にマルコは押され気味で成す術も無く、何故か代わる代わるに抱き付かれていった。
その光景はまるで『ハグをする会』のように見える。

―― 何なんだよい……これはよい……。

果てさて何しに会場に戻って来たのかとマルコは本気で忘れ掛けたが、かぶりを振って我を取り戻す。そして最後に抱き付いてきた貴族女子の両肩を掴んで引き離しながら「終わりだよい」と告げようとした。
しかし、それは逆効果だった。
それを見た周囲の貴族女子達が挙って黄色い悲鳴にも似た叫び声を上げ、マルコはビクリと驚いて停止した。そしてマルコが両肩を掴んだ貴族女子へ視線を落とすと、その女性は頬を真っ赤に染めながら目をウルウルと潤ませ、実に嬉しそうな表情を浮かべていてギョッとする。

―― な、何…だよい?

「わ、私を見初めてくださったのですね?」
「はっ!?」

女の発言にマルコは10トンハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
固まるマルコを他所にその女は嬉し涙を浮かべながらマルコの胸元にそっと手を当てて身を寄せた。

「私と結婚を前提にお付き合いしていただけるのですね。嬉しい。凄く、嬉しいですわ」
「……な、何言ってんだよい!? 誰が結婚なんて――」
「より深い愛を育む為に踊りましょう!」
「ちょっ、おい!」

女に腕を掴まれたマルコは強制的にダンスホール中央へと連行された。マルコは焦って止めようとしたが、そこには強制的に踊らされているイゾウ、ハルタ、エースがいて目を丸くした。そしてその隣では何故かノリノリで最も良い雰囲気を醸し出して踊るサッチと貴族女子がいる。

―― いや、サッチ、お前ェ………。

サッチが相手にしている女はブロンドの髪に化粧をばっちりとめかし込み、先程まで否定を口にしていたはずのタイプの女だった。
マルコと目線が合ったサッチは、視線を斜め上に逸らして口笛を吹くようにして惚けるのだから、マルコは眉間に手を当てて溜息を吐いて呆れるしかなかった。

―― やっぱりサッチはサッチだよい。

少しでも信じた自分は阿呆だとマルコは反省した。

「あの」
「ん?」
「お名前を教えてくださいませんか?」

パートナー(仮)となった女の申し出にマルコはキョトンとした。すると周りにいた女達も「私も知りとうございます!」と挙って聞いていた。

「「「是非教えてください!」」」
「あ、いや、おれは」
「そいつはマルコってェ名だぜ!!」
「サッチ!?」
「「「あァお慕い申し上げますマルコ様!!」」」
「ッ……」

―― サッチてめェ……何もかも終わった後でもう一発ぶち込んでやるからない!?

マルコは覚悟しろよと言いたげにサッチを睨み付けながら女に腕を引かれてダンスホール中央へと誘われた。
女は嬉しそうにマルコの身体に胸を寄せて密着するとうっとりとした表情を浮かべる。

「い、いや、その、おれは…踊れねェからよい、他の男と踊った方が良いと思うんだが……」
「ふふ、大丈夫ですわ。私が上手にリードして差し上げますから。さァ、私の腰元に手を」
「いっ、いや! ちょっ!」
「遠慮なさらないで…マルコ様」

女はマルコの手を取ると自分の腰へと添わせた。
マルコが視線を彷徨わせるとふとマヒロとレイラの姿を捉え、二人が呆然とこちらを見つめていることに気付き、愈々焦り出した。そして一方、煌びやかな貴族女子と共にダンスホールに立つマルコを見つけたマヒロは――拗ねた。

―― 何をそんなに顔を赤くしているの? どさくさに紛れて貴族の女と踊るなんて……お仕事はどうしたんですかァァァ!?

今直ぐにでも駆け寄って引き離したい衝動に駆られながらも必死にポーカーフェイスを保って平静を装っている自分をマヒロは全力で褒めてあげたいと思った。

「どきたまえ下賤の輩が見苦しいぞ」
「痛いですね、何をなさっ…こっこれは、ラウレンス王子!」

貴族男子を乱暴に押して割り込んだ一人の男がマヒロとレイラの元に現れた。

「ふふん、これは美しいお嬢様方だ。このような会場の隅で誰にも相手にされずにいるとは勿体無い。私と踊りませんか?」
「あ、いえ、私は……」

金髪でいかにも成金な出で立ちをした男は、マヒロとレイラの前に片膝を地に着けてキザったらしく声を掛けた。
レイラはマルコの方を気にしつつマヒロの背後に少し隠れるようにしてオドオドしながら答え、マヒロは小さく溜息を吐いた。

「そうね、ちょっと待ってくださいます?」
「ん?」

マヒロはそう言うとレイラの手を引いて男達の中を掻き分け、ダンスホールの手前で足を止めた。

「ここでちょっと待ってて」
「え? あ、あのマヒロさん?」

戸惑うレイラをその場に残し、マヒロはダンスホールで踊っている人達の間を堂々と歩いて中央へと向かった。そしてマルコの元に来ると、抱き付くようにして踊る女の肩を掴んで踊りを止めさせた。
マルコは頬を引き攣らせた笑みを浮かべつつマヒロから視線を外して頬をポリポリと掻いた。そして折角の二人の時間を邪魔された貴族女子は「何なのあなた?」と不満顔でマヒロを睨み付ける。

「お楽しみのところ悪いのだけど、この人をお借りしますね」
「え? あ、ちょっと! あなたに何の権限があってそんなこと!」
「権限ならあります。この人は私の父の部下ですから」
「!」
「……ょぃ……」

超絶笑顔で平然とそう答えたマヒロに女は驚き、マルコは何とも言えないプレッシャーを感じて身を小さくした。

―― 間違っちゃあねェけどよい、マヒロの笑顔が凄く怖ェよい。

「だ、だからって」
「まだ何か?」
「あ、あなた、無礼よ! 何様なの!?」
「ゾイル様のお客様です」
「ッ……!」
「……」

怒れる女にマヒロはニコニコと笑顔で答える。何だこの問答はとマルコは失笑するしかない。

「では、」
「あ、待ちなさい!」

女の制止を無視してマヒロはマルコの腕を引いてダンスホールの端へと連れて行く。
マルコは助かった半分恐怖半分でとてつもなく複雑な心境だった。
恐る恐るマヒロに視線を向けるとバチッと視線が合った。するとマヒロはフッと柔らかい笑みを浮かべ、その瞬間にマルコは背筋に恐ろしく冷たい何かが走った気がした。

「お仕事」
「よ、よい」

とても素敵な笑顔を浮かべて一言述べたマヒロにマルコはコクリコクリと何度も頷いた。必死だった。全く生きた心地がしなかった。
マヒロは笑ってはいるが目が完全に笑っていなかったからだ。後々にマヒロに対して必死に土下座して謝罪する自分の姿が脳裏に浮かぶ。

―― ……おれは完全に尻に敷かれるタイプだよい。

と、マルコはげんなりして溜息を吐いた。
マヒロに引っ張られながらレイラの元へと向かう。その途中でマヒロはポツリと言った。

「眼鏡を外した方が目付きが悪いから余計な女に好かれないで済むと思うんですけど、外しませんか?」
「毒を吐き過ぎだよいマヒロ……」

冷たいマヒロの言葉の矢がズシリとマルコの精神を射抜く。
マルコは妖怪以前にマヒロに殺されるんじゃないかと本気で思った。

「あれ? 誰だろう?」
「ん?」

先程まで群がっていた貴族達の中にはいなかった男がレイラの手を取って話し掛けていた。
レイラの周りでは貴族女子達がその男を見つめて頬を赤く染めている。
男が彼女達に視線を向けると笑みを浮かべて軽く会釈をすると、彼女達は黄色い悲鳴を上げて喜んでいた。
長い銀髪に赤い瞳を持った優男――ゾイルの部屋でマルコと擦れ違った男だ。

「マヒロ」

マルコは足を止め、先を歩くマヒロを引っ張った。

「何? まさか妬いてるの?」
「ばっ、違ェよい」

先程の笑顔など疾うに消えて不機嫌な表情を浮かべるマヒロは冷ややかな目を向ける。見当違いも甚だしいと思いつつもマルコはマヒロに小声で話した。

「あいつに気を付けろ」
「え?」

あの男が直前まで触れていたドアノブに触れた時、僅かに電気が走ったような痛みを感じたことを思い出したマルコは警戒心を露わにした。
マヒロはマルコが真剣な表情を浮かべていることからただ事では無い事を察して小さく頷いた。そして、当のレイラに視線を向けるとマヒロは目を丸くした。

―― レイラ…さん…?

「何……?」
「マヒロ?」
「……怖がってる、どうして?」
「!」

マヒロの言葉に眉を顰めたマルコは視線をレイラに向けた。銀髪の男は背中を向けている為、表情は一切わからないが、レイラの表情は明らかに恐怖したそれだった。

「悪かったマヒロ」
「え?」
「レイラを誘って来るよい」
「…えェ、急いで」
「よい」

マルコは足早にレイラの元へと向かった。

貴族の戯れ T

〆栞
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