15


何ということでしょう。
目が覚めたら目の前には見知らぬ男がいるではありませんか。
いえ、見たことのある制服姿の男達が沢山いるではありませんか。

何度も瞬きを繰り返してガバリと起きたマヒロは自分の目を何度も擦った。そんなマヒロの直ぐ目の前にこれまた見たことのある立派な衣服を纏う男(と言っても年老いた人だ)がニコリと笑みを浮かべて腰を下ろしていた。

「この海の真っただ中を女がたった一人で漂流しとるからと思って助けたんじゃが、まさかただ眠っておっただけとは驚かされた。何事も無く元気そうで何よりじゃよ。あー…、麗しの…何じゃったかな?」
「はっ! 麗しの漆黒拳士です!」
「おお、そうじゃったそうじゃった! 何とも妙な通り名じゃと思ったが実際に会うて見ると成程、名前負けはしとらんな」

ガッハッハッと楽し気に笑う男を前にマヒロは自分が置かれている状況を冷静に分析する。

―― ……寝てる間に海軍に捕まった……?

ダラダラと冷や汗が額から流れ落ちるのを感じながらマヒロはオズオズと手を上げた。

「あのォ……」
「ん、なんじゃ?」
「私は捕まったのでしょうか?」
「そうじゃな。見たまんまじゃ。ガッハッハッ!!」
「へぇ、そうなんですか〜。やっぱり捕まっちゃったんですかァ〜。あははは」

楽し気に笑う男に釣られるようにマヒロは右手を後頭部に当てて笑った――と言うか、笑うしかなかった。
腕を拘束している錠は見たところ普通の錠では無いように見える。頑丈で簡単には壊れ無さそうだ。

―― ど、どうしよう?

この窮地をどう脱するかをマヒロは必死に考えるが寝起きだからか思うように思考が回らない。
眉間に少し皺を寄せて「うー…」と小さく唸ると、目の前の男はマヒロの様子を髭を触りながら何かを確かめるような目で見つめ、「ふむ…」と小さく頷いた。

「どうやら悪魔の実の能力者では無いようじゃな。おい、海楼石外してやれ」
「はっ!」

男の命令でマヒロの腕を拘束していた錠は程無くして外され、よく見られる普通の手錠を掛けるべく部下の男が再びマヒロの腕を拘束しようとした。しかし、「待たんか」と男が制止を呼び掛けた。すると部下の男は手を止めて戸惑いがちにその男の方へ視線を向けた。

「抵抗せんところを見ると、このお嬢ちゃんはなかなか話のできる子じゃと見受ける。拘束具はいらんじゃろ」
「は? し、しかし、この者は一応賞金首ですし!」
「いざとなりゃわしが押さえる。老兵と言えど娘一人を取り押さえれんことは無い。それとも何じゃ? お前はわしがこの娘っ子に敵わんとでも思っておるのか?」
「い、いえ! 決してそのようなことは……」

別に凄んで言ったわけではない。終始笑みを浮かべながら話す男に部下の男は慌てふためくようにして頭を深く下げるとマヒロから離れて行った。

―― ただ単に上司だから命令に従った…ってわけじゃ無さそうね。年の功…でも無いか。

豪快に笑うその男にマヒロは余程の人物なのではと憶測を立て、下手に抵抗するのは得策では無いと判断した。

―― となると……、うーん、どうやって逃げるか…なんだけど……。

「わしは海軍中将を務めるガープじゃ。麗しの」
「あ、あの!」
「――ん? なんじゃ?」
「そ、その名前で呼ばれるのはちょっと不本意です」
「む? ならばお前さんの名を教えてくれんか?」
「あ、マヒロです。センザキマヒロと申します」
「そうかマヒロという名か! 良い名じゃな!」

ガッハッハッ!

ガープという男は海軍の人間ではあるがとても豪快で快活で楽しそうな人であり、先の島で会った男とは大きく異なる。
マヒロの中の海軍に対するイメージが少しだけ改善された瞬間だった。

ガープとマヒロの少しだけ世間話をすると『何故マヒロが賞金首になったのか』という話題へと変わっていった。するとマヒロの話を聞かされたガープは、自分が手にしている手配書を見つめながら不満気な顔へと変え、少し怒っていた。そして「すまん!!」と深々と頭を下げたのだった。

「そのような経緯があったとは……、マヒロのような娘子が賞金首に、しかもこのような高額な金額を掛けられるとはおかしいと思っておったんじゃ」
「あ、その、ガープさん、頭を上げてください! 私も殴ってしまったことは事実ですし!」
「いや、マヒロのは正当防衛じゃよ。何も悪いことはしておらん。悪いのはマカロニじゃ。己の立場を利用して普通の娘子さんを賞金首にするとは、とんでもない話じゃわい!」

ガープは苦悶の表情を浮かべた顔に手を当てて大きな溜息を吐いた。

「でも、ガープさんのような方とお会いして、私の中の海軍のイメージが少し変わりました」
「む? そうか? そう言うてくれると嬉しいわい」

マヒロの言葉にガープは頬を少し赤らめると照れくさそうに頭を掻きながら笑った。

「あの、ところで……」
「ん?」
「私の船はどうされたのでしょうか?」
「おお! そうじゃったな! マヒロの船はこの船に繋いどるよ。荷物も無事じゃ。しかし、何故にお前さんのような娘子がこの海を一人で渡り歩いておるんじゃ?」
「えェっと…、そ、それは……」

ガープの問いにマヒロは慌てた。
まさか『白ひげ海賊団を探して旅をしています』等と言えるわけが無い。

―― 普通に考えてもそうよね。一人で海を渡る人っていないわよね。気になるよね。質問するよね。えっと、えェっと……ど、どうしよう〜!!

ヒクリと頬を引き攣らせた笑みを浮かべつつ、どう説明をしたものかとマヒロは必死に考えた。するとガープは片眉を上げて少しだけ首を捻ったがクツリと笑みを零して小さく頷いた。

「何か話せん事情があるようじゃな……まァ良いじゃろう。それより、この船なんじゃが海軍本部がある島を目指して現在航行中でな」
「え?」
「この手配書を無効にするよう話をせねばならん。その為にマヒロも一緒に来て今の話を上の連中に話してもらうことになる。わしが言ったところで妄言じゃと言われ兼ねんからなァ。本人を見て判断して貰う方が良いじゃろうと思ってな」
「えェ!?」
「ガッハッハッ! なァに心配する必要は無い! マヒロはなかなか素直で礼儀正しい出来た娘子じゃから大丈夫じゃ! わしが保証する!」

驚いて固まるマヒロを他所にガープは年の割に子供の様な笑顔を浮かべるとマヒロの頭に手をポンッと置いてわしゃわしゃと無遠慮に撫で回した。そして部下にマヒロを船の一室に案内するように指示を出したのだった。

「明日には着くじゃろうから、それまでゆっくり寛ぐと良い。マヒロはわしの客人じゃ」
「あ、は、はい」

マヒロの心情も意見も聞くこと無く、ガープは上機嫌に自分のペースで話を進めていった。押しの強さというのか、ガープのペースに完全に呑み込まれたマヒロはただただ言うままに従うしかなかった。

―― 海軍本部のある島って……? ……えェェ!?

白ひげ海賊団を探す所かどんどん距離が開いて行く気がしたマヒロは、案内された部屋に通されて一人になると途端に頭を抱え込み、部屋にあったソファにヘニャリと力無く崩れるように腰を下ろした。
そして――。
あーだこーだと色々対策を考えている間に無情にも時は過ぎ、現在マヒロは海軍本部の広い部屋のど真ん中に置かれた椅子に座らされ、ガープを含めた五人の海軍のお偉いさん方と面談をしていた。

―― うう…、どうしてこんなに運が悪いの? これじゃあ運任せの旅なんてとても無理よ……。

赤髪海賊団の船で「運任せ!」と言っていたあの時が懐かしい気がした。

―― あぁ、一人旅はやっぱり無謀だったみたいですベンさん。

「んー、こんな可愛い子が一人で旅をねぇ〜?」

黄色いスーツを来た男が興味深げにマヒロを見つめながらポツリと言うとマヒロは項垂れる頭を上げて彼を見た。するとふと誰かに似ていると思った。よくよく見ると彼と同じような海軍のコートを肩に掛けている赤いスーツの男と青いスーツの男もどこかで見たことのある顔だとマヒロは思った。

―― ……はて? どこで見たんだろう? 誰だっけ?

そんなことを思い出す余裕があるのかと不思議に思う程、急に冷静になったマヒロは腕を組むと眉目を寄せて軽く首を傾げた。そしてふと青いスーツの男と視線がかち合いハッとした。

―― あ、松田優作だ……。

マヒロが学生の頃、祖母幻海のお使いでレンタル店へと走ったことがある。そこで借りた探偵もののドラマの主演とそっくりなのだ。すると途端に頭の中で絡まっていたピースがピタピタと綺麗に収まっていくと、残りの二人が誰に似ているのかが直ぐにわかった。

―― ……田中邦衛に……菅原文太……?

ドラマ等一切見ることが無かったマヒロが何故詳しいのかは全て祖母である幻海の影響だ。
ビデオレンタル店へ何度もお使いに行かされた思い出は今では本当に懐かしい……あまり思い出したくも無い思い出だ。中でも任侠ものを借りる時が本当に恥ずかしかったのだ。
年若い学生がまさか任侠ものを借りるとは――と、レジに立つ店員にジロジロと見られながら会計をする間、マヒロは終始顔を俯き加減に背け、羞恥に耐えなければならなかった。

―― 制服姿で借りに行くもんじゃなかったよね。あれは本当に恥ずかしかったもの。

どこを見るとも無く思い出に浸るマヒロは軽く現実逃避をしていたのかもしれない。

「―――か?」

声を掛けられていることにも気づかない程、気持ちがどこかに行っているマヒロは気付くことも無く「はァ…」と溜息を吐いてかぶりを振り、ふっと切ない表情を浮かべた。

「聞いとんのか!?」
「ッ!?」

赤いスーツを着た男がドンッと机を怒鳴った。その音に驚いたマヒロはビクンと反応して椅子から身体が数センチ程浮いたのだった。

「あ! はい! す、すみません!!」

赤いスーツの菅原文太(違)に怒鳴られたマヒロは慌てて頭を下げながら何度も謝った。しかし彼は眉間に皺を寄せたまま不機嫌に睨み付けて来る。

―― そ、そんなに怒らなくても……。全く話を聞いていなかった私に非があるのは当然なんだけど。

思わず身を小さく縮込ませるマヒロに青いスーツの男が少し同情したのか助け舟とばかりに赤いスーツの男に声を掛けた。

「サカズキさん、若い娘さんにそんな風に凄んじゃ答えるもんも答えれませんって。少しは優しくしてあげたらどうです?」
「お前のそのだらけきった態度を改めるんじゃったら考えんでもないんじゃけェのぉ?」
「お二人さん、話が脱線しちゃあ元帥殿の雷が落ちるよ〜?」

言い合いを始める青いスーツの男と赤いスーツの男に仲裁する言葉を投げ掛ける黄色いスーツの男。
三者三様の性格はとても個性的であり、更に対照的なものに思えたマヒロはそれぞれが喋る度に視線を向ける。すると中央に座る最も偉い(と思われる)男がテーブルに肘を突いた手を組んだまま眉間に深い皺を徐々に刻んでいき、それはそれは深い溜息を吐いた。
青、赤、黄色の三人が自分を放置してマイペースに喋り倒すことに辟易しているようで、こんな部下を持つ上司の苦労が何となく伺える。

マヒロは苦笑を浮かべるとガープが「コホンッ」と咳払いをした。すると三人は話すのを止め、とりあえずガープに説明した内容を話すようにと促されたマヒロは多少遠慮気味に話し始めた。

「実は――」

かくかくしかじか……と、冬島であったことを正直に話した。

「――と、いうわけでな、非があるのはマカロニで、マヒロには罪が無いと言うことじゃ」

ガープがマヒロに引き継ぐ形で話し、マヒロの賞金首リストを撤回するように要求した。すると中央に座る男はマヒロを見据えて口を開いた。

「その話に嘘偽りは無いのだな?」
「あ、はい」
「何じゃ? 疑うのかセンゴク?」

ガープが眉を顰めて問い掛けると赤いスーツの男が「当然じゃろう」と口を挟んで来た。

「正義が嘘を言うなんぞふざけたことしちょるんは許せんけェのう」
「まァ、殴ったことは殴ったからねェ」
「殴ったことは正当防衛ってことで許してやっても良いんじゃないですか〜? うちの連中が勘違いしたってことにすれば丸く収まるんじゃないですかね?」

本当にこの三人はそれぞれ個性が強過ぎるとマヒロは思った。

一人は『正義』を押し通す我の強い男。
一人は飄々として茶目っ気があるがなかなか辛口で甘くは無い男。
一人は兎角暢気で、適当にだらだらしていて面倒臭そうにする男。

暢気な男は先の二人に比べたら少し寛大な所があるようだが、よくこれで『三大将』と言って同等の地位でやっていけるなとマヒロは変に感心した。それは恐らく中央に座るセンゴクと言う名の元帥の手腕によるものなのだろう――多分。

―― あ、眉間にまた皺が増えた。

「センゴク、疑っては可哀想じゃろう? このような”幼気な少女”の言葉を信じてやらんなど、それこそ海軍としての名折れじゃて」

―― ……はい?

ガープの言葉にマヒロはキョトンとしたが直ぐに眉を顰めて首を傾げた。

「ふむ…、まァ確かに”幼気な少女”には気の毒なことをしたが……」

―― ちょっ…、ちょっと…。

これでもかと眉間に皺を寄せたセンゴクは苦悶に満ちた表情を浮かべながら少し悩んでいるようだ。

「ふん! ”幼気な少女”じゃ言うた所で結局は海軍相手に手を挙げたんじゃけェ、それ相応の罰はあって当然じゃろうが」

―― 待って、待ちなさい。

サカズキと呼ばれる赤いスーツの男が正義を貫く厳しい言葉を投げ掛けてガープの意見に対立する。

「んー、こうなるとサカズキは本当に手厳しいよ〜? ”幼気なお嬢ちゃん”には可哀想だけど仕方が無いねェ〜」

―― ……。

黄色のスーツの男が他人事のようにサカズキの意見に同調した。

「あらら、お二人が脅すように言うから”愛らしいお嬢ちゃん”が固まっちゃったじゃないの」

―― !!

青いスーツの男が適当ながらも同情してなのか温情めいた言葉を投げ掛ける。ただ彼の言葉が決定打だったのか、マヒロの苛立ちが頂点間近にまで達した。

「……あの、私って、そんなに……幼く見えるの?」
「「「 ん? 」」」

途切れ途切れであったが静かにそう問い掛けるマヒロに五人の男達は揃ってマヒロに視線を向けて首を傾げた。
その反応の仕方が全てだった。

―― あー、そう…ですか……。

「さっきから幼気な娘って仰いますけど! 私はこれでも二十八歳よ!!」
「「「何ィィッ!!??」」」

ガタンと席を立って自分の年齢を叫ぶマヒロに対し、五人の男達は心底から驚いたようで、珍しく声を揃えて叫んだ。するとマヒロはギリッと奥歯を噛み締めて悔し気な表情を浮かべると苛立ちが頂点をぶち抜いて完全に怒った。

「なっ、何なのよ!? 海軍も海賊と変わらないじゃない!!」
「何じゃと? おんどりゃァ聞き捨てならねェことほざきよったのぅ? 海軍に喧嘩売る気か!?」
「リアクションが同じだからよ! そりゃあなた方からすれば私は子供に見えるでしょうけど!」
「女風情がキーキーと五月蠅いのぅ! たかが年齢に」
「レディに対して失礼極まりないって言ってるの! バカじゃないの!?」
「貴様ァ、わしに盾突こうなど笑わせよるわ!」
「あァ初めて会ったわ。こんな分からず屋を相手にしたって埒が明かないわ!!」

激高するマヒロとサカズキはお互いに睨み合って罵り合いを始めた。
まるで猫と犬が睨み合って威嚇をし合っているようだったと、ぽかんと見つめる二人の大将は後に語っていたというが、ただただ二人の喧嘩を四人は唖然として見つめ、視線はマヒロに一極集中していた。

『あの赤犬サカズキに負けずに喧嘩する女』

結局、手配書を取り下げて貰うどころか後々に5000ベリーが追加課金されることとなった(サカズキが足した)。

「ガープさん、ありがとうございました。またどこかでお会いしましたらゆっくりお話しましょうね」
「むっ? ……う、うむ」
「おんどれ! 貴様ァ逃げるっちゅうんか!? 海軍本部にいて簡単に逃げられると思ちょるんか!?」
「あーもう五月蠅いわね! こっちに来ないでよ!? 私はあなたみたいな人が一番嫌いだわ!!」
「奇遇じゃのう。ワシもお前みたいな女は一向に好かんけェのう!」

マヒロとサカズキの間にバチバチバチと雷が迸る。

「……センゴクさん、ど〜すんですか…?」

喧嘩腰の二人に呆れる青いスーツの男が頭をガシガシ掻きながら全てを上司に委ねようと声を掛けた。

「……ハッ!?」

呆気に取られていたセンゴクは我を取り戻してブルブルブルと頭を振って気を持ち直す。その一方で黄色のスーツの男が感心するように笑みを浮かべていた。

「サカズキにあそこまではっきりものを言う女は珍しいねぇ〜? ちょっと気に入っちゃったかもねェ〜」
「明るい健気な子じゃと思ったが、マヒロはなかなかに肝の据わった娘子だったんじゃなァ。いや、元気で良い! 益々気に入った!」

ガープは楽し気にガッハッハッと大きな声で笑うのだった。だが、外野の言葉など耳にも入っていないマヒロは眼前のサカズキに牙を剥く。

「寄るな、触るな、赤だけに垢が付くでしょ!?」
「なんじゃと!? 小娘がァ好き勝手にほざきよってからにえェ度胸しちょるのぅ! 今直ぐにでも仕置きしちゃるけェ覚悟せェ!!」
「「「赤だけに垢……ぶほっ!!!」」」

サカズキが激高する一方で四人は何故かマヒロの台詞がツボに入ったようで噴き出して笑い出した。その一瞬の隙に好機と見たマヒロは「失礼します!」と言うと踵を返して走り出した。
向かった先は窓だ。

「貴様ァ! どこへ――!?」
「!!」

部屋のドアでは無く、窓へと駆け出したマヒロはガラスを突き破って外へと飛び出した。
ここは高階層にある部屋だ。
このような高い所からまさか飛び降りるとは誰も予想しておらず、彼らは慌てて窓に駆け寄って見下ろした。するとマヒロは手足を巧みに使って壁に宛がい落下速度を落としながら見事に地上へと着地してみせた。

「あらら、結構やるじゃないの」
「ん〜これは見事だねぇ〜」
「のんびり感動しちょる場合か!? 女を逃がすな!!」

暢気な二人の大将に怒鳴りながらサカズキは急いで海兵達に「女を捕縛せよ!」と指示を出した。
しかしマヒロはさっさと森へと逃げ込むと突き当たりの崖を飛び降りて川沿いに海を目指して逃走した。そして、自身が乗っていた小船が繋がれている船を見つけるとロープを断ち切ってさっさと出港したのだった。
その際、数人程の海兵がマヒロに気付き、慌てて後を追おうとしたが後の祭りだ。
サカズキに対する怒りを原動力にして颯爽と大海原へと漕ぎ出す力は凄まじく、凄い勢いで遠ざかっていったのだから――。

「マルコさんがとことん『正義』を嫌うのってアイツのせいね!」
(……怖ェよいマヒロ。と、とりあえず、落ち着けよい……)
「あァもう! 無性に腹が立つ!」
(あんまり怒るとまた吐血するよい?)
「ッ…コホッ! ケホッ!!」
(…あぁ、ほら…言わんこっちゃないよい)

呆れたマルコが眉間に手を押さえて溜息を吐いている姿が容易に想像できた。普段のマヒロならムッとするのだが、想像したその姿でさえも何故か胸がキュンとなって切ない気持ちになるのだから、余程自分はマルコに飢えいているのだと自覚した瞬間だった。

―― うう…、マルコさんに早く会いたい……。

大海原で一人、マヒロは切実な想いを胸にクスンと涙を零すのだった。

海軍本部にて

〆栞
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