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秋島、ヴァルガン――。

大きな町の一画に多くの人で賑わう酒場があり、そこは一際賑やかだった。
強面の男達が挙って酒を呷りながらゲラゲラと大きな声を上げて楽しく飲んでいる。
その酒場の奥の一画に、他の男達とは一線を画して大物感を漂わせる男達が集って酒を楽しんでいる姿があった。

そんな男所帯の酒場に稼ぎ時と言わんばかりに幾分か濃い化粧で強い香水の匂いを辺りに巻き散らしながら綺麗に着飾った女達が、色香を全面に押し出して声を掛けながら身体を密着させて誘惑するように話し掛ける姿が多々あった。
その中でも如何にも女としての自信があるとでも言いたげなプライドの高そうな女達が数人いて、そういった女達は自ら言い寄らずとも男達から声を掛けられていた。だが彼女達はその辺の男達には興味が無いとばかりに軽くあしらい、より良い男をと物色するような目で酒場の中を見回しながら優雅に歩いていた。
そして、彼女達はその酒場の奥にいた他の男達とは異なる雰囲気を持った男達を見つけると真っ直ぐに足を向けて声を掛けた。するとそこにいたリーゼント頭の男が笑顔で応対して受け入れると彼女達は男達の間に腰を下ろして酒を注いだり色気を漂わせながら話をし始めるのだった。

「まぁ! あの白ひげ海賊団の隊長方ですの?」
「あァ、そうだぜ。おれっちは4番隊隊長のサッチってんだ」

サッチは隣に座った女の肩に手を回して自分の方へと引き寄せながら意気揚々と自分達の身を明かした。
彼女達は『大物海賊団との関係を密にするチャンス』とばかりにより身体を密着させ、より一層の色香を漂わせて話しをする。
特にこのサッチという男は他の者達と違って余程好色なのか、反対側にも女を座らせて両手に花状態だ。
そんな彼を溜息がてらに白い目で見る者が数名いて、彼らはそんなサッチと女達から離れようと席を立ち、別の場所へと移動すると男達だけで酒を酌み交わして飲み始めるのだった。
隣に居た女達は立ち上がる男達の腕を掴んだものの碌に相手にもしてくれそうにない雰囲気に直ぐに手を離し、心底から残念だとばかりに顔を曇らせるのだが、女を目当てに来ているわけでは無い彼らからすればどうでもいいことで気にもしていない。

カランコロン......

がやがやと賑わう酒場の戸が開けられる鐘の音を鳴らしながら一人の女が入って来た。だが、賑わう大勢の声にその音は掻き消されて誰の耳にも聞こえていない。
誰も新たに外から入って来た彼女の存在に直ぐには気付かなかった。しかし、その女の姿は他のどの女達よりも一際美人で、女の存在に気付いた男達の視線を一瞬にして釘付けにさせた。
既に娼婦を隣に侍らせておきながらも頬を赤らめて鼻の下を伸ばした何ともだらしの無い顔でその女に目移りしている。だが女はそんな男達に一切構うことも無く酒場を見回し、最奥に視線を止めるとそこに向けてさっさと歩いていってしまった。

「んだよ、やっぱり隊長目当てか〜」

一人の男がとても残念そうにぼやくと隣に座る男が「仕方が無ェだろ。隊長達は格別だからなァ」と慰めの言葉を適当に放って酒を飲むのだった。





新たに島に着いたとしてもマルコは物資調達の指示を出すと直ぐに船内に引っ込んで自室へと戻ると仕事机に着いて再び多くの書類と格闘していた。

相変わらずの乱雑な文字ぶりに溜息を吐きつつその文字の解読に集中する。

粗暴で乱雑で教養もいらない自由こそ海賊。文字が綺麗に書けないのはまぁ仕方が無い。そんなもの海賊に必要かどうかと言われたら不要だ。だが白ひげ海賊団に至ってはそうはいかないのだ。
千六百人を抱える大所帯となると事あるごとに報告は必要となって来る。そしてそれを取り纏めて管理をしなければやってはいけない。だから隊長達は毎回当然のように報告書を提出する必要があり、それを纏め役でもあるマルコが処理するのだが――。

今マルコが手にしている書類の提出者はハルタだ。

「相変わらず、あー、この文字は何だったかねい……?」

イゾウ、ビスタ、ジョズ辺りは性格からか文字が綺麗で読みやすい。他の隊長達も癖は酷いが読めない文字ではない。だがハルタとラクヨウに至っては酷過ぎてほぼ暗号に近い。綴りが違えば書いている内容の意味がよくわからなかったりすることもしばしばある程。

「あァそうか、わかった」

必要な書き込みをして処理済みの判子をポンと押し、ふぅ…と溜息を吐いた。

「あいつよりかは幾分かマシってとこか」

処理済みとなったハルタの書類から目線を外した先に纏めて置かれた未処理の書類。そこには『2番隊』の文字があり、『ACE』という文字が乱雑に書き込まれていた。それはハルタやラクヨウ以上に難読な文字が書かれている上に不備がとても多いので手付かず状態となっていた。

「エースの奴は今どの辺りをほっつき歩いているのかねェ……」

現在エースは本船から離れて別行動の真っ最中だった。

ある日「仲間に引き入れてェ奴がいる」と言ったエースは、マルコの制止の声も聞かずに意気揚々とストライカーに乗ってさっさと出て行ってしまった。

「エース! くそっ、勝手に行動しやがって」
「グラララ、良いじゃねェか。そう怒る程のこともでも無ェ」

白ひげはエースに甘くて笑っていたがマルコにとっては甚だ迷惑でしか無い。

―― 管理するこちら側の立場としては色々と予定が狂っちまうんだから……勘弁してくれよい。

そんな末弟が出て行ってから早十日は経とうとしていた。

くあっと欠伸が出るとマルコは眼鏡を外し、指で眉間を軽く揉むように押さえながら席を立ち、その部屋を後にして食堂へと向かった。
今は船番を担当する者以外の船員は町へと出払っている為、船内は非常に静かだ。
食堂に入ると厨房へと向かい、冷蔵庫を開けるとサッチの置手紙付きの軽食があった。

『 〜 仕事人間の鬼マルコへ 〜

絶対に食べろよ! 食べなきゃおれっち泣いちゃう!

      * サッチさんより愛を込めて * 』

「……お前の愛は余計だよい」

サッチの手紙を眺めつつ軽食とコーヒーを誰もいない食堂で一人食していると、1番隊のギルという名の男が食堂へと入って来た。
彼はマルコを見つけるとペコリと頭を下げてマルコの元へと来ると真向いの席に腰を下ろした。

「遅い晩飯っすね」
「あァ」
「見回り順調。特に不振な奴もいないし平和そのもの。おかげで暇してます」
「仕事なんだ、仕方が無ェよい。暇して辛ェってんなら書類整理の」
「あ、遠慮します!」
「――即答ありがとよい」

ギルは満面の笑顔で元気良く断った。当然の反応だろうから期待はしていないマルコは然して怒るでも無く、呆れにも似た溜息を吐きつつ笑みを零した。

「大体、好き好んで書類と睨めっこできる海賊なんてェのはマルコ隊長ぐらいっすよ」
「おれだって出来ることなら願い下げだ。けど、誰かがやらなきゃなんねェんだから仕方が無ェよい」
「ハハッ、マルコ隊長がいなかったらこの船は絶対いつか破産してえらいことになるっすね!」
「二年前の机の上は悲惨だったからなァ、もう出来る限り船を空けるようなことはしねェよい」

マルコがそう言うとギルは当時の記憶を思い起こし、笑みを浮かべながらも眉尻を下げて懇願するような表情へと変えた。

「本当、そうして欲しいっす。あの時の隊長ってばマジで不機嫌過ぎて超怖かったんすから。おれ達1番隊隊員は戦々恐々で、軽くトラウマになった奴だっているんすから」
「そうかい? 寧ろそんぐれェの方が気が引き締まって良いとは思うけどねい」

マルコがニヤリと悪い笑みを浮かべて言うと、ギルは頬を引き攣らせると「勘弁してくださいよ〜」と机に突っ伏して嘆いた。

「ククッ、冗談だよい」
「隊長のは冗談に聞こえないことがあるから性質が悪いっすよ」

ギルがそう言うとマルコは片眉を上げて軽く笑った。

「ほれ、見回りはまだ終わってねェだろい?」
「うい〜っす」

ギルは苦笑を浮かべると席を立ち、船内の見回りをしに去って行った。
マルコは最後の一口を口に放り込んでコーヒーで流し込むと席を立ち、厨房へと移動すると使用した食器を洗い始めた。
その時に偶々通り掛かったビスタが珍しいものを見たとばかりに口髭を摩りながら笑顔を浮かべ、マルコの元へとやって来た。

「マルコが食器を洗う姿なんて珍しいものが拝めたな」
「4番隊が全員出払っちまってるから仕方が無ェよい」
「厨房に立つ姿は存外に似合っているぞ? 偶には船で過ごすと面白いもんが見れるもんだな」

嫌味なのか褒めているのかよくわからないビスタの発言にマルコは眉をピクリと動かしたが、ビスタは楽しげに笑って去って行った。

「……いちいちそんなことを言いに来たのかよい? ……暇人め」

眉間に皺を寄せて苦々しい表情を浮かべつつ軽く舌打ちをしたマルコは、洗い物をさっさと済ませると気分転換に外の空気を吸おうと甲板へと上がる階段へと向かった。

外に出ると雲一つ無い晴天で、夜空には星々が所狭しと輝きを放つ姿が一面に広がっていた。
マルコは海が臨める方へと移動すると欄干に両肘を突いて夜空を移す海を眺めた。すると直ぐに妙な気配を感じてピクンと反応した。

―― ……はァ……。

この気配は町の方からだ。溜息を吐いて一度首を垂れると反対側へと移動して夜の町を見つめた。
町には殆どの仲間がいる。その仲間に犠牲者が出なければ良いがと思いつつ不安が過る。

「あれ? マルコ隊長、休憩っすか?」

背後から声が聞こえて振り向くと、見回りをしていたギルがキョトンとした面持ちで立っていた。

「ギル悪ィんだが……」
「はい、何です?」
「おれは今から町へ繰り出すからよい」
「え?」
「用事があることを思い出したんだよい。だから少し空ける。船にはビスタがいるから何かあればビスタにこう言え。『隊長がおれの代わりに指揮を頼むと言っていた』ってよい」
「えェ!?」
「出来るだけ早く戻って来るから、頼んだよい!」
「ちょっ! 隊長!!」

ギルの制止の声を聞かずにマルコはさっさと下船して町へと向かった。
相手の気配を探りながら可能な限り自身の気配を消して足早に移動する。そうして辿り着いた先を見るとマルコは思わず溜息が出た。

『酒場』だ。

―― 人目が付き過ぎるっつぅか、仲間が集うど真ん中じゃねェかよい。

思わず苦虫を噛み潰したような顔をしたマルコは舌打ちをした。だが迷っている間に誰かが”奴”の餌食になる可能性がある。それが仲間なら尚更守らなければならない。
マルコは少しだけ逡巡したが意を決して酒場へと向かい扉を開けた。

カランコロン......

「あれ? マルコ隊長?」

マルコが中に入ると酔っ払った隊員がマルコに気付き、不思議そうな顔をして声を掛けて来た。

「どうしたんすかぁ〜? 今日は確かマルコ隊長のところが船番だったんじゃ〜?」
「はァ…酒の飲み過ぎだよい。少し自重してもう帰って寝ろい」
「ういっす! 自重して帰りマッシュルーム!」

その隊員はビシッと敬礼して元気よくオヤジギャグを交えて答えると周囲にいた隊員達はゲラゲラと笑った。

―― 流石に素面じゃそれは笑えねェよい。

マルコは幾分か眉間に皺を寄せると「程々にな」とだけ言葉を掛けて酒場を見渡した。すると一画に見慣れた連中がいるのを見つけ、足を運べば一番最悪なパターンがそこにあった。

「おや? マルコじゃないか。今日はお前さんの隊が船番だったんじゃないのかい?」
「おー! マルコ―! 仕事をサボって飲みに来るなんて珍しいなー!」

イゾウがまずマルコに気付いて声を掛け、少し遅れて気付いたサッチが手を挙げて声を掛けた。するとサッチの周りにいた娼婦達も釣られるようにマルコへと顔を向けると、彼女達は急に顔を赤く染め、まるで花が咲くようにパッと笑顔になった。

「マルコって、あの1番隊隊長の不死鳥マルコ!?」
「えェ!? 嘘、やだ、本物じゃない!」
「きゃああっ! マルコ様ァァァァ!!」
「ッ!?」

サッチの周りにいた娼婦達は突然ガタンと立ち上がると黄色い声を上げながら挙ってマルコに抱き付かんが勢いで迫った。それを見たサッチは呆然としたが直ぐに「な〜んでお前ばっかりモテんだよ!?」と悔しそうにぼやいた。
しかし、マルコに纏わり付く彼女達と違い、とても落ち着いた女が一人だけサッチの側に居た。

「ふふ、私がおりますわ?」
「おーおー、見る目あるな!」

女はふわりと柔らかい笑みを浮かべてサッチにそう言うと、サッチは嬉しそうにその女の隣に移動して肩を抱き寄せた。

「おれの良さを知ってんのはお前だけだぜ〜ミュゼ。なァ、今夜どうよ?」
「ふふ、サッチ隊長なら喜んでお相手致しますわ?」
「はっはっはっ! そうか! なら早速行こうぜ!」

サッチはミュゼという名の女の手を取って立ち上がるとマルコにニヤリと笑みを浮かべ「美人ゲットー!」と勝ち誇るかのように言って足早に酒場から出て行った。

「ねェ、マルコ隊長、今夜は私がお相手致します」
「ダメよ! 私よ!」
「マルコ隊長、今宵は私と一夜を共に致しませんか?」

猫撫で声でそう言いながらマルコの腕や身体に纏わり付くように身を寄せて密着して来る女達の言葉にマルコは溜息を吐いた。

「悪ィがよい、おれはそういう目的でここに来たんじゃねェんだ」
「え〜、そんなぁ〜」
「じゃ、じゃあその用事が済んでからでも構いません! 今夜は私と!」
「嫌よ! 隊長は私とするの!」
「違うわ! 私よ!!」
「何よ! 私の方が上手いんだから!!!」
「バカ言わないで頂戴! 私の方がマルコ隊長を喜ばせてあげられるわ!!」
「ッ……」

―― いや、『する』前提で喧嘩すんなよい。

マルコを囲む女達は大きな声で喧嘩を始めた。隊長達や隊員達はニヤニヤと笑みを浮かべながら「罪作りだなマルコ」とか、「隊長やるぅ〜! よ! 色男!」とか、「っかぁ〜! 憎いねぇ〜隊長! 今夜は複数プレイっすか!?」と好き放題にマルコに声を掛けた。そして誰が言ったのか最後の言葉を耳にした女達は喧嘩をピタリと止め、マルコに一斉に視線を向けると頬を紅潮させて言った。

「「「複数プレイでも構いませんわ! あなたに抱いて頂けるのなら!!」」」
「おれの意見はそこに無ェのかよい!?」

―― じゃねぇ! おれはマヒロ以外の女を抱く気は更々無ェよい!!

軽く頭を抱えつつ顔を顰めたマルコは密着して来る女達を追い払うように腕を使って強引に引き剥がした。

「おれには決めた奴がいるんでねい、他の女を抱く主義は毛頭無ェんだ。諦めろい」

少し冷たい声音でそう吐き捨てるように言ったマルコは足早に酒場から出て行った。そして気配を探れば案の定、行き先は宿屋だ。

―― ったく、世話が焼ける!!

宿屋に向かい、部屋を聞いて乗り込みぶち壊すのは簡単だろう。だがそれではまるであの娼婦を間に自分とサッチが取り合いをするかのように傍目には映ってしまう。

―― あいつから来て貰うとするかねい。

「悪ィなァサッチ。お楽しみを邪魔するよい」

マルコは宿屋には入らずに裏手に続く道を通り抜け、その先にある森の中へと入って行った。そして一定の距離を取ったところで足を止めると宿屋の方角へ意識を集中し始めた。

周辺の空気がチリチリと俄かに震え出し、木々がザワザワと風に揺られる中でパキパキと弾けるような音を出し始めた。
更により集中し始めると手の甲から腕に掛けて青い炎がボボボボッと爆ぜる音を成して現れ始めると、宿屋にいたその気配が動き始めたことに気付いた。
マルコは口角を上げた笑みを浮かべるとその気配がこちらへ向かって来るのを待った。

そして――。

森の中、直ぐ近くまで来た頃合いを見計らって力を抑え、青い炎も、揺れる大気も、静かに形を潜めた。
パキンという枝が踏まれて折れる音が背後から聞こえた。
マルコが振り向けば暗い影からすっと姿を現す人物――ミュゼだ。
サッチと共に酒場を出て行ったあのミュゼが、怪訝な表情を浮かべつつもどこか喜々とした雰囲気を醸し出してマルコの元へと歩み寄って行く。

「1番隊隊長不死鳥マルコ」
「お楽しみのところを悪いと思ったが邪魔させてもらったよい」
「今のはあなたね?」
「あァ」

ミュゼはマルコに近付く妖しく艶めかしい手付きでマルコの頬に触れた。
頬を紅潮させてうっとりした表情を浮かべて目を細めて見つめるミュゼに対し、マルコは表情一つ変える事無くじっとミュゼを見据えている。

「ふふ、私が欲しいからって強引ね? あなたが最初から酒場にいれば、私は間違い無くあなたを選んでいたわ?」
「そうかよい」
「あなた、凄く美味しそうだもの」

ミュゼはそう言うとマルコに抱き付いて胸元に顔を埋めた。

「ねぇ…、私を抱いてくださらない?」
「抱く?」
「だって、これからというところを邪魔されたのよ? それに…、私はあなたのような人とセックスがしたいの」

うっとりとした女の顔で甘い言葉を口にして誘うミュゼにマルコは片眉を上げると軽く笑った。

「そこは『喰う』の間違いじゃねェのかよい?」

マルコがそう言うとマルコの頬を怪しく撫でるミュゼの手がピタリと止まり、ミュゼは少しだけ眉を顰めた。だが直ぐにクツリと笑みを浮かべた。

「ふふ、面白いことを言うわね。えぇ、そうよ、”ある意味で”食べることもするわ? でも私は食べるよりも身体を重ね合う方が好きなの」

マルコの頬を撫でていた手の人差し指でマルコの顎のラインをツウッとなぞる様に動かすと親指でマルコの唇を軽く撫でた。するとマルコはそのミュゼの腕を掴んで引き離した。

「あら、簡単に触れさせるから嫌じゃないのかと思ったけど、気分を害したかしら?」
「あァいや、違う」
「じゃあ何?」
「妖怪の分際で娼婦の真似事をする奴がいるなんて驚いて固まってただけだよい」
「!」

マルコがニヤリと笑みを浮かべて核心を突く言葉を放つと今度こそミュゼは表情を変えた。

「な、何を言って」
「力のある人間を食らって自分の糧にする為に物色してたんだろい?」
「ッ!」
「周りの奴らを騙せてもおれは騙せねェ。運が悪かったと諦めろいミュゼ」

ミュゼの腕を掴む手に自然と力が入りつつ冷たい声音でマルコがそう言うと、これまで可憐な女の様相を見せていたミュゼから棘の様な殺気が放たれ始めた。

裏の顔

〆栞
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